第5章 狂おしき運命の旋律
「それにしてもさ。わざわざ傭兵になんてなって命を危険にさらさなくとも、盗んで食って、道端で寝りゃ簡単じゃねえか。
マナのチカラがあれば、万が一大人に追われてもどうにかできるしさ。
ゴミ箱の中だって、あさりゃ残飯くらいはあるぜ?」
「そんな事、念頭にすらなかったのである!
盗みなどできないのである!」
イリスェントが叫んだ。
とんでもないとでも言わんばかりの、険しい顔だ。
「傭兵募集の貼り紙を見た時から、幼い自分が食べていくにはこれしかないと思ったのである…例え危険でも…それ以外、どうやって生きていけばいいかわからなかったのである!
……まあ、今現在、戦う力となっているから良いのであるが」
生来生真面目なイリスェントには、汚い事をしてでも生き延びるという考え方は出来なかったのだ。
悪さをしてまで、ゴミの中の残飯を見付けてまで、路上や区域外れで寒さに震えながら寝てまで生きる事は、己の正義感がアイディアを出させなかったのだろう。
どんなことをしてでも生き延びたタオには、理解出来なかった。
いや、したくなかった。
まるで自分が、酷く汚い存在に思えてしまいそうでならないからだ。
「もしやタオは、そんな生き方を…?
どうしてそんな事をして生きてきたのであるか…。
幼い身では、働き口に困るのは確かであるが…どうして、自分の手を汚してまで…」
イリスェントには、わからなかった。
何故、犯罪をおかして、逃げて逃げて、泥にまみれる生き方をしてきたのだろうか。
タオは、心の中に何かを決めている顔で答えた。
「チェンを守る為だったんだ。
優しいあいつは、どんなに飢えて汚くなっても食い物や服を盗むなんて出来やしねえし…、人間の下で働くのもごめんだった。…というか、ちびすぎて雇われなかっただろうな。
チェンが死ぬくらいなら、どんな手段も使う。
あいつの命と笑顔を守る。その為なら、悪にだってなってやる」
「…タオ…君は、不器用であるな。
それ以外、チェンを守る方法が思い浮かばなかったのだから」
イリスェントは、目を伏せた。
「オレぁお前みてーに頭よくねーんだ」
タオは、イリスェントの肩を2、3度叩いた。
「つーか、それを言うならお互い様だろ。
戦うしか、生き方を見つけらんなかったんだぜ?
昔は、子どもでも他に働き口があっただろうになぁ」
「………数多の人間の命を踏み台にする以外にも、他に生きる道もあったのであろうな」
イリスェントは哀しく微笑んだ。
「我が輩が、タオの事を責める権利はないのである。
タオやチェンが生きていてくれて、良かったのである」
「オレも、お前が生きてて良かった。
過去に何をしててもな。
昔は昔。今は今だ」
イリスェントは、驚いた。
マオから心の支えの帽子をもらうまで、笑顔ひとつなかった者とは思えぬ優しい言葉に。
マナのチカラがあれば、万が一大人に追われてもどうにかできるしさ。
ゴミ箱の中だって、あさりゃ残飯くらいはあるぜ?」
「そんな事、念頭にすらなかったのである!
盗みなどできないのである!」
イリスェントが叫んだ。
とんでもないとでも言わんばかりの、険しい顔だ。
「傭兵募集の貼り紙を見た時から、幼い自分が食べていくにはこれしかないと思ったのである…例え危険でも…それ以外、どうやって生きていけばいいかわからなかったのである!
……まあ、今現在、戦う力となっているから良いのであるが」
生来生真面目なイリスェントには、汚い事をしてでも生き延びるという考え方は出来なかったのだ。
悪さをしてまで、ゴミの中の残飯を見付けてまで、路上や区域外れで寒さに震えながら寝てまで生きる事は、己の正義感がアイディアを出させなかったのだろう。
どんなことをしてでも生き延びたタオには、理解出来なかった。
いや、したくなかった。
まるで自分が、酷く汚い存在に思えてしまいそうでならないからだ。
「もしやタオは、そんな生き方を…?
どうしてそんな事をして生きてきたのであるか…。
幼い身では、働き口に困るのは確かであるが…どうして、自分の手を汚してまで…」
イリスェントには、わからなかった。
何故、犯罪をおかして、逃げて逃げて、泥にまみれる生き方をしてきたのだろうか。
タオは、心の中に何かを決めている顔で答えた。
「チェンを守る為だったんだ。
優しいあいつは、どんなに飢えて汚くなっても食い物や服を盗むなんて出来やしねえし…、人間の下で働くのもごめんだった。…というか、ちびすぎて雇われなかっただろうな。
チェンが死ぬくらいなら、どんな手段も使う。
あいつの命と笑顔を守る。その為なら、悪にだってなってやる」
「…タオ…君は、不器用であるな。
それ以外、チェンを守る方法が思い浮かばなかったのだから」
イリスェントは、目を伏せた。
「オレぁお前みてーに頭よくねーんだ」
タオは、イリスェントの肩を2、3度叩いた。
「つーか、それを言うならお互い様だろ。
戦うしか、生き方を見つけらんなかったんだぜ?
昔は、子どもでも他に働き口があっただろうになぁ」
「………数多の人間の命を踏み台にする以外にも、他に生きる道もあったのであろうな」
イリスェントは哀しく微笑んだ。
「我が輩が、タオの事を責める権利はないのである。
タオやチェンが生きていてくれて、良かったのである」
「オレも、お前が生きてて良かった。
過去に何をしててもな。
昔は昔。今は今だ」
イリスェントは、驚いた。
マオから心の支えの帽子をもらうまで、笑顔ひとつなかった者とは思えぬ優しい言葉に。