第5章 狂おしき運命の旋律

「ところでさ、マオ。
この神殿、部屋多すぎねぇ…?
オレ達合計10人。部屋の総数5億以上。
それぞれ自分の部屋があるとはいえ、確実に余ってるだろ。なあ?」
「……。
かつて、我の生まれる前ほど昔の時代」
マオがポツリと開口する。
「この神殿に、5億の者が住まっていたとしたら……?」
「は?よせやい意味わかんない事言うの!
昔、5億人も引っ越してったなんて」
タオは笑って対応した。
「…バカ子孫にはまだ教えてなかったが、悪魔は総勢5億以上だ」
今度はタオは、固まった。
「紆余曲折あり女神とエステレラに地獄に落とされる前、サタン達は我々の住んでいる場所に住んでいたと聞く。
広すぎても、致し方あるまい」
「マ…。マジかよ…」
これから自分は、5億人もの強敵を相手にしなくてはならないのか。
そして、その強敵が、以前この広大な神殿に住んでいたとは。
タオは、驚く事ばかりでどう言えばいいかわからなかった。
「な、なんで、そんな事お前が知って…」
「1000年もマナ一族続けていればわかる」
マオは平然と答えた。
「汝もいずれ、全てを知るようになるだろう。
それより、さかさか手を動かせ。
夕食の時間までに間に合わなくなるぞ」
「ひえー、それはやだー!」
急速に掃除のスピードを速めた子孫を見て、マオはふっと僅かに表情をゆるめた。

その夜、イリスェントはなかなか寝付けずあてなく天上界を浮遊していた。
この花びらの舞う夜空は、なんとも美しい。
それぞれにちょうどいい気温が常に保たれているここは、夜だから寒いという事もない。
なんと快適なのだろう。
あとしばらくはこうしていよう、とイリスェントは思った。
「あれ?イリスェントじゃん」
「!」
これは予想外。ばったりとタオに出会した。
「君も、眠れないであるか?」
「んー。寝なきゃいけないとはわかってても、寝付けなくてさ。
たまには一緒に天上界の散歩…?散浮…?としゃれこもうか」
「そうであるな」
イリスェントはクスと柔らかく笑んだ。
「ここって、夜でもキレイだよなー!
イリスェントって、ここに来る前何してたんだ?」
「傭兵である」
それを聞いてタオは目を丸くしたが、すぐに納得した。
「ああ、お前、強いもんな…。
でもなんで、10歳にも満たないうちから傭兵なんかに」
「パパとママに捨てられたからである。
貧困に陥ってな。口べらしと言えば、わかりやすいであろうか。
だからと言って、我が輩もやすやすと飢え死にするわけにはいかないのである。
だから、町で傭兵募集の貼り紙を見た時、迷う事なく傭兵になったのである」
イリスェントは、表情もなく淡々と語った。
あまりに壮絶な話に、タオは同情し悲しい気持ちになった。
「どこの親も、酷い事をするもんだな……。
オレとチェンは、親に化け物扱いされて殺されかけて二人で家出した」
「そうか…」
イリスェントもまた、同情の色を見せた。
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