第5章 狂おしき運命の旋律

「…人間は気にくわねえが、てめえはもっと気にくわねえ顔してやがるな。
"アイツ"にそっくりだ」
アーマントゥルードの眼前の、アミーの殺気は凄まじかった。
その殺気や黒い翼や黒衣にも怯えることなく、アーマントゥルードは尋ねた。
「あなたは誰かしら?」
「サタン…、アミーだ」
アミーは低く名乗った。
「アミー!まあ!私の愛称と同じ名前だわ…。
ねえ、サタンさん?いったい私に何のご用なの?
申し訳ないけれど私、弟を捜すので忙しいの」
「もうその弟にゃ会えねえよ」
「どうしてあなたが言い切れるの?」
アミーの物言いに、アーマントゥルードは不快に感じた。
見知らぬはずの悪魔に、なぜ弟の所在が言い切れる?
アミーは、すぐに答えた。
「アダム・ウィリアムズはな、もうマナ一族なんだよ!
てめえなんか遠くて手も届かない、天上界にいるんだ!!
いくら探したって無意味なんだよ!人間!!!」
無意識にアミーは語気を荒くしていた。
宿敵、2代目学者にそっくりなその外見による苛立ちがそうさせるのだろうか。
アーマントゥルードは、あまりの衝撃に目を丸くし身をこわばらせた。
だが、すぐに持ち直し、キッと目の前の悪魔を見据える。
「だから何だって言うの?!」
「わからねえ人間だな!てめえの弟はもう化け物なんだよ!!」
「化け物じゃない!!アダムは、私の可愛い弟!
小さな、私の弟よ!
マナ一族になって生き延びてるのなら尚更、なんとしても再会してお互いの無事を確かめ合わなきゃいけない!!
私はアダムのお姉ちゃんなのよ!!」
一切の迷いもなく、ここまで言い切るとは。
今度はアミーが驚かされた。
あんなに自分勝手なくせに、時には自分達だけでなくマナ一族だって化け物呼ばわりするくせに、ここまで弟の為に尽くす事が出来るとは。
自分達を身勝手な偏見で貶めたわがままな生き物なくせに、ここまで…!
アミーの苛立ちは、ますます募り行く。
「……そんなに、殺されてえようだな」
アミーは片手に魔力をともした。
「サタンに逆らった事を、冥土で後悔しろ」
それでも、アーマントゥルードの強き瞳は変わる事はない。
魔力が発動され、彼女が飲み込まれ消される瞬間、アミーの耳に確かに届いた小さな言葉。
「アディー…、バイバイ」
弟を愛情こめてあだ名で呼び、消されていった女性。
最期まで、弟を愛しながら……。
憎い人間を消したというのに苛立ちはちっとも消えず、アミーはわなわな震えた。
わけがわからない。
人間とは、わけがわからない。
ともかく、ヘルデウスに報告しなくてはならない。
アミーは、地獄へと瞬時に姿を消した。
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