第3章 有限だとしても

「ふーん。尊敬しとうんやね。上司のこと」
「ああ。かなりな」
そうこう話しながら歩いているうちに、二人は目的地まで到着した。
「ほれ。着いたぞ」
「んっ!助かったし!
じゃなおじいちゃん!」
チョルくんは、喜んで部屋に入っていった。
"おじいちゃん"。
まさか人間に、こう呼ばれようとは。
でも何故か、悪い気はしない。
人質の愛嬌のせいか?
サタンを相手に、怯えも嫌悪もせず礼すら述べる、小さな人質の…。
相手は人間だというのに……。
アロケルは、チョルくんに対し親愛がわき始めているが、その感情がなんなのか、まだわからずにいる。
「人質と話しておられたのでござりまするか?主君」
そこに、魅力的な容姿の青年が現れた。
刀身を思わせるような銀髪のポニーテールに、まるで血のように赤い目。
そして、その目と同じくらい赤い着物を身に付けている。
「うむ。道に迷っておったのでな…。部屋まで案内してやったのじゃ!まったく、人間とは面倒なものじゃい!!」
「さようにござりまするか?それにしては…あまり、ご機嫌の悪いようには見えませぬが」
青年は、冷静沈着に言った。
すると、またもアロケルの頬に赤みがさし、眉間にシワが寄った。
「…ご無礼つかまつりました」
青年は、小さくクスと微かに笑った。
「それでは、拙者は本来の姿へと戻りまする。
…参りましょうぞ。主君」
青年の姿は、鞘に納まった両手剣へと変わり、スッとアロケルの腰におさまる。
「……ああ。剣一」
忠臣とも呼べる武器の名を呼び、アロケルは静かに歩き始めた。
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