第3章 有限だとしても

拭き掃除を終え、ベルフェーゴルとチョルくんは別れた。
…は、いいが、チョルくんは同じところをぐるぐる回っていた。
いわゆる、迷子である。
(アイゴー、こん城広すぎるんよ!
建てたん誰だし!
ありえんし!)
「こりゃ!!こわっぱ!!こんな所でなぁにやっとる!!!」
背後から、しゃがれたカミナリのような大声が飛んできた。
一体なんだとか誰だとか思いながら振り向くと、そこには両目を髪で隠した老人の悪魔が立っていた。
長い前髪から僅かに、鋭利な眼光が見える。
「なんねお前は、カミナリ親父か」
「もっとはっきりしゃべらんかい!!これだから若いもんは!」
どうやら、耳が遠いようだ。
チョルくんは大きな声で言い直す事にした。
「なんねお前は!!カミナリ親父か!!」
「失礼な!!全く今の若いもんは!!」
今度は聞こえたらしく、老人悪魔は反論してきた。
「それに、お前は、四天王が連れてきた人質じゃな?
なぜ、わしを恐れん!
サタンですら、はっきり話すパイモン以外めったにわしに近寄らん!
この目!この耳!全く忌々しい!」
パイモンの大声量も、彼にとっては普通に聞こえるらしい。
「その異様に細か目と遠か耳が、どーかしたと?」
チョルくんは、さらりと答えた。
「目付きが悪いのは、老眼が進んだからじゃ!!
…お前は、本当にわしがなんでもないようじゃな。珍しい人間じゃ。」
「うん。なんでもなか」
「そうか。もしかしたらお前は、道に迷っているのか?」
「そーだし。部屋行きたいけど、わからないんよ」
「では、わしが案内してやる。
わしはアロケルじゃ。覚えておくがいい。」
老眼悪魔は、アロケルというらしい。
ぶっきらぼうに名乗ったアロケルを見上げて、チョルくんはにっこりした。
「ありがとだし、おじいちゃん!」
「お、おじいちゃん…?!」
戸惑うアロケルの頬には、赤みがさしている。
「とにかく行くぞ、こわっぱ!!」
「はいは~い」
つくまで黙っているのもなんだしと、二人は歩きながら話をした。
「お前は学問は知っておるか?」
「んー、ヌナにちょっとだけ習ったし!
ハングルと倭区域の言葉ば習ったし!
おじいちゃんは?」
「そうだな、わしは、占星術、文法…論理学、修辞学、数学、幾何学、天文学、音楽が得意じゃ。
なんなら、暇な時に教えてやってもかまわんぞ…?人間は、頭が悪そうじゃからな」
アロケルは、ウォッホン、と照れを誤魔化した。
「チョルくん人質なのに、教えてくれると?!
勉強!」
「視るに、どうせろくに学校にも行けとらんのじゃろ?
このままでかくなっても、アレだからな」
「マンセーッ!!」
チョルくんは、万歳をしてはしゃいだ。
「じじいのくせにいいやつだし!」
「一言多いわい!!」
「フフフ…、だって本当におじいちゃんなんやもん」
チョルくんはいたずらっぽく笑んだ。
「ところで、おじいちゃんはヘルデウスより年食った感じするけど、ヘルデウスより先に生まれたと?」
「いいや、ヘルデウス様のあとに四天王、その後わしらハエ騎士団は全員誕生した」
「てことは、上司のが若かとかー。
ヘルデウスや四天王にこきつかわれて、どんな気持ちと?」
チョルくんは、からかうようにによによした。
「フン。わしはもともと、王や指導者の器ではないのだ。
おとなしく、ほかの若い衆と共にマナ一族でも狩っとるわい」
アロケルは、ヘルデウスや四天王をよほど認めているのか、悔しそうな様子はなかった。
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