第3章 有限だとしても

そもそも、あのクォク・テチョルがここに在る大元の原因は、マナ一族が彼をたった一人神殿に残して全員地上に降りてしまったからだ。
あの15人は大馬鹿ではないのか?
ただの人間の幼子に、ほんの数時間、数十分といえど神殿を任せるだなど。
マナ一族は、仲間を盲信してしまった。
その代償がコレだ。
くだらない。じつにくだらない。
いつかは終わりが来る"友情"を過信し、いっときの儚い快楽と甘さでしかない"愛"にすがりつき生きている甘えた餓鬼共、それ見た事か。
子供をさらったのは悪行だ。
しかし、それを行わせる隙を作ったマナ一族はもっと悪い!
これが、四天王やハエ騎士団の意思だった。

(うう。相変わらず、寒かね…)
チョルくんは、冷えた体で震えながら廊下を歩いていた。
この地獄の家々は暖炉で暖められてるといえど、廊下までとはいかない。
早く部屋につきたいと思いながら足を進めていると、ヘルデウスの部屋の前から、話し声が聞こえてきた。
(何ね?)
チョルくんは、ドアごしに聞き耳をたてた。
「だから~、ヘルデウス様。俺はこう思うわけなんです!
人質なんかに、暖炉のある個室が要りますか?!
うまいメシが要りますか?!
ムダムダ、ムダですよっと!」
サブナクの声だ。
どうにも、不穏な話題らしい。
「人間の人質なんて、ただ生かしときゃい~じゃないですか!
手枷足枷つけて牢獄にでも突っ込んで、てきとーに3食与えとけばそれでいーでしょっと!
人質は人質!人間は人間っと!」
チョルくんは、体がこわばり頭が真っ白になるのを感じた。
そうだ。自分は人質で、しかも人間だ。
そういう待遇も充分にありえたのではないか。
チョルくんが息苦しさを感じていると、続いてヘルデウスの声が聞こえてきた。
「だが、子供だ。
例え人間であれ、子供にそんな生活は送らせたくない。
あの子はとても人間らしい。健全に育てたい」
「え~ヘルデウス様、お人好しすぎです!
ルシファー様は紳士的に接してたし、アスデモス様もまあまあいい感じに相手してたし、ベルゼバブ様なんかおやつ分け与えてたし、もおなんなんですか!
俺なら、同居してるってだけで我慢なりません!」
「あの子は、この地獄にいながら怯えもしないし、私達サタンに敵意を向けたりもしない。
ちょっと環境が変わっただけくらいに思って、気丈に振る舞っておる。
牢に繋ぐほどの人間ではないな…」
「もお~ヘルデウス様ったら話にならない!!
失礼しますよっと!」
バンと乱暴にドアが開かれ、中から怒り顔のサブナクが出てきた。
サブナクは、チョルくんに「じゃま!!盗み聞きとか、陰険!!」と吐き捨て、ずかずか早足で歩き去っていった。
「ど、どっちが陰険だし…」
ごもっともな事を、チョルくんは呟いた。
「……ベルフェーゴルの手伝いにでも行こ。
あいつ確か、掃除当番だし……」
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