第2章 バカげた生き方!

「…で…では」
「うむ。突如、行方知れずとなってしまった小姓の名も存じ上げておる。
代々伝わっておったゆえにの。
その小姓の名は……」
「世歩…歩人…」
震える唇が、自身の名前をもらした。
「さようじゃ。なにゆえ行方をくらませたか、いずこへ行ったか、行方知れずとなってから何をしておったのか、長く生きたのか、すぐに死んでおるのか。
…この神殿に来て、初めて知った。
小姓は、マナ一族であったのじゃ。ゆえに、人の世を離れた」
ホトは何も言わなかった。
いや、言えなかった。
そんな彼を察して、ヒミコは表情を和らげ続けた。
「安心せよ。徳久家永は、小姓を……」
その時だった。
二人の眼前に、ひとりの武士の霊が現れたのは。
とても穏やかな面持ち。まさに……。
「徳久、家永…殿」
ヒミコは、敬意をこめ深々と立礼をする。
「っ……。
申し訳、御座りませぬっ!!!!!」
ホトは、床に額がつきそうなほどに土下座をした。
罪悪感と怖れで全身小刻みに震える。
「某は、初代マナ一族ウォークマスター。人ならざる者……。行方知れずとなり申した日、人間ではなくなってしまいました。斯様な話、信じて頂けるはずもないであろうと……無礼は百も承知と存じ奉りながら無断で旅立ったこと、心の底より深くお詫び申し上げます!!!
化け物が人の世で生活して良いはずがありましょうか?
しかしこの2000年間、不忠義と運命(さだめ)への後悔と無念を忘れた日はございませんでした……。
誠に、申し訳ありませぬ!!
あれほどのご恩を受けておきながら…。
上様がお望みとあらば、直ちにこの場で腹を切りまする‥‥某を、お怨みに御座りますれば!!」
『歩人よ‥‥。わしが、そなたのことを疑うはずがなかろう?』
徳久家永は、驚くほど穏やかな声だった。
『そなたは、立派な人間じゃ。
生きた、血の通った徳久家の家臣。ほんの少しばかり、強く力持ちな人にすぎぬ。
来世があれば、生まれ変わって、またわしに仕えてくれ』
「…上、様………!!」
この時ホトは、数世紀ぶりに大粒の涙を流した。
徳久家永が死んだとわかったあの日と、同じくらいに。
声を出さず涙する家臣の肩を、徳久家永は優しく何度か叩いた。
武士道とは何か。
これが、武士の優しさか。
武士の生き方とは。
武士とは。
ヒミコはさまざまな想いを胸に、その光景を見ているのであった。
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