第2章 バカげた生き方!

その夜、ホトは花びらの舞う夜空を廊下から眺めていた。
奉仕していた殿様が、徳久家永が死した時を思い出していたのだ。
あの時自分は、虚ろな目をし、部屋で小刀を前に座っていた。
それを偶然、マオに見られた。
「…申し訳ありませぬ、上様…」
小刀に手をかける。
マオは、切腹かと思いあせって駆け込んで来た。
「よせっ!!やめろーっ!!」
――ザッ!
切られたのは、腹ではなく総髪に結わえていた髪だった。
長く風に揺れていた髪は、ざんぎり状態だ。
「……髷がない侍など、侍ではない」
無表情で、マオに振り向いた。
「今まで俺は、上様に仕える武士世歩歩人である自分を心のどこかで捨てきれずにいた……。だが今日からは、立場は“女神に仕えるウォークマスターホト”、のみ…だ。
上様が、死んだからにはな……」
マオは、それを見て思った。
(…侍とは……。侍とは、何なのだ?)
(我は帝のお側を離れた際、あのように覚悟したか?
あそこまで、己を自制したか?)
(人格が変わるまで、いでたちを変えるまでに忠義を、誇りを抱いていたか?)
上様が亡くなってからここらのホトは、まるで笑わなかった。
いつもの周囲を照らすような明るさが消え、静けさの中に…。
マナから聞いた。ホトが、腹を切って詫びたいと、武士でありたかったと、なりふり構わず涙を流していた事を。
(自殺を考えるまでに、主君や生き方に責任を感じられるか……?)
マオの目から、静かに一筋涙がこぼれた。
(――――侍とは………)

「……どうした?眠れぬのか?」
物思いに耽っていると、そこにヒミコがやって来た。
ホトは、口元に微かに弧を描き「お前こそ」と返す。
ヒミコは、フフと笑んだ。
「斯様な時間に二人きりじゃ。話せる事もありそうじゃの」
「ほう。何かあるのか?」
「じつはの、ホト」
1拍起き、ヒミコは明かした。
「…わらわは、徳久家永の遠き子孫なのじゃ」
「!!!」
衝撃だった。
かつて誠心誠意仕えていた殿様の、徳久家永様の、上様の子孫が、己が仲間――マナ一族の巫女だなどとは。
ホトは驚愕のあまり、全身の震えが止まらない事すら気付いていない。
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