第1章 覚醒の時、来たれり

その頃、コリア区域の宮殿に、一人の来客が訪れていた。
伝来ハカセと名乗る小さな外国人に、イルカは微笑みを向けた。
「どうなさいまして?父上様や母上様ではなく、王女のわたくしに面会、しかも一対一でとは……嗚呼。
昨夜、夢で見た通りですわ」
「今日の事を予知夢で見たんだね。
じゃあ、イ・シェムルカ姫、僕の言いたい事も全てわかるよね?」
ハカセが真剣な表情で尋ねた。
「ええ。わたくしに、3代目巫女として旅立てとおっしゃるのね」
イルカは淑やかに答えた。
「人間でなくなってしまったのは、致し方ありません。
地位を捨て、旅に出て仲間を探しますわ。
あとは、宮中の者や、大切な家族たちが納得してくれれば…」
「納得できるわけなかっ!!」
大きな音がして扉が開き、チョルくんがそこに現れた。
ひどく焦った表情をしている。
部屋の外で、話を聞いていたのだろう。
「チョルくん…。
………。
ご紹介しますわ。伝来ハカセ。わたくしの義弟、クォク・テチョルと申しますの。」
「認めんし!!ヌナがいなくなったら…、誰が跡目を継ぐと?!!」
「それだけじゃないだろう?」
ハカセは、静かに口を開いた。
そして、全てを見透かしたようにこう言った。
「君が本当に心配なのは、大切な姉がいなくなる事だよね?
今まで教育してくれた、大切なヌナが」
まるで自分の全てを知っているかのようなセリフ。
彼は何者なのだろうか?
本当に人間なのか?!
ハカセはさらに、言葉を続けた。
「僕だって、身勝手は百も承知だ。
彼女は王女、そして君の大事な姉」
「じゃ…、じゃあ、ひっこみんしゃいよ!」
チョルくんの目には、うっすらと涙がにじんでいる。
「チョルくん…、あなたと別れるのは、胸の張り裂ける想いですわ」
イルカも、悲しそうな顔だ。
「出会った時からずっと…、いろいろな事を教え、お世話して参りましたものを。
わたくしとあなたとは、すでに何もかも違う」
「どうやら二人には、相当な絆があるようだね…僕も、引き離したくなんかないんだけど」
ハカセは、とてつもなく罪悪感にかられた。
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