第1章 覚醒の時、来たれり

ところ変わって、美花区域シオミ村。
とある家の中で、一人の少年が聖書を読んでいた。
(女神が選び、天使に導かれしマナ一族…すっごいお話ですけど、僕には関係ないでしょうね)
少年は、聖書を閉じ本棚へしまった。
「明宇ー、でかけるわよ!
あなたもいらっしゃい!」
女性が、ノックしながら部屋の外から声をかけた。
「はーい、お母さん」
少年――明宇は、すぐに部屋から出てきた。
「おっ、でかけるのか?俺も行こうかな」
「あいやぁ~。お父さんも行くのですか?」
「楽しいところなら、ついてくぞ」
父親はニッと笑いながら答える。
「そうね…、買い物だから、楽しいところと言えるのかしら?
みんなで行きましょ」
母親は、にっこりした。
学校は楽しいか?
仕事は順調?
今日のご飯は何にしよう。
そんな他愛ない親子の会話をしながら歩く明宇の隣を、黒いフードを目が隠れるほど被った男性が横切った。
彼は、何かブツブツと言っていた。
いったいなんだろう?
明宇がそう思った、直後だった。
彼の体が光り、衝撃波のような魔力が周囲を飲み始めた!
これは一体?!
自分はどうしたというんだろう?!
村人達が魔力に掻き消され、家々は破壊されゆく。
先ほどまで隣で笑っていた父も、母も。
「いやだ…いやだーっ!!」
耐えきれなくなり、明宇が叫ぶと、事態はおさまりあたりはシンと静まり返った。
周囲は血の海と化し、生き残った村人達が自分を畏怖の目で見ている。
嗚呼、どうしてこんな事に。
「マナ一族…」
「マナ一族だ…」
「やけに、最近、武術に秀でていると思っていたら…」
「"格闘家"か…」
恐れた村人達の、胸を苦しくさせる声が聞こえる。
「ッ…、捕まえて下さい!!」
明宇は、血を吐くように叫んだ。
「捕まえて下さい!!捕まえて下さい!!僕は人を殺しました!!捕まえて下さい!!」
流れる涙も拭わず、明宇は叫び続けた。
彼を取り囲む、村人達と建物の残骸の中心で。
「捕まえて下さい!!捕まえて下さい!!」
しかし、誰も彼を引き立てはしなかった。
彼を人間ではないとみなしたからだ。
彼は――明宇は、後に仲間達と出会うまで、この生活が続くだろう。
学校にも行けず、誰からも恐れられ憎まれ無視される生活が。
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