序章~We lived,and what was prohibited!~

『ごめんなさい、こうするしかないのです……。
殺めはしません。ただ、あなた達を……』
マナの女神の声は、儚く感じられた。
『地獄に、追放させて頂きます。
まだ人間達も満足するでしょう。
本当にごめんなさい。
どうか、そこで生き延びて……』
「地獄?!
あの《氷結地獄/コキュートス》の事言ってんじゃないでしょうね?!」
アスデモスが目を見開いた。
「地上とも天上界とも切り離された、あの絶対零度の文字通りの"地獄"にですって?!!
冗談じゃない!!!やめろ!!!!」
血を吐くように叫んでいるのは、アスデモスだけではなかった。
ハエ騎士団も、叫んでいた。
泣き叫び、悲鳴を上げ、屈辱から唸り、罵声を吐く。
「おめえら、一生怨んでやる!!死ねばいい!!」
ベルフェーゴルが涙ながらに上を睨み付けている。
「…これで終わりだと思うなよ…」
ルシファーも、悔し涙で瞳を濡らしながら上を見ていた。
「何が愛だ……何が友情だ」
「ちくしょおおおっ!!!!」
強制的に人の姿にさせられ落ちゆく竜太郎が絶叫する。
「いやああああああ!!!凍死するなっていうほうが無理だっていうあの場所に……生き延びろっていうの?!!
無茶苦茶だあああ!!!
あんたたちがやってみればいいんだ!!!」
ベルゼバブはわかっていた。
どんなに泣き叫ぼうが、もはや自分達を待ち受ける運命は変わらないのだと。
だがそれでも、泣き叫ばずにはいられなかった。
静かなのは、ヘルデウスだけだった。
無表情で眼から一筋の雫をこぼし落ちていった。
「ごめん…。ごめんね」
エステレラが呟いた。
ひどく切ない声だった。
堕ちてゆく。どこまでも堕ちてゆく。
寒い世界に向かって堕ちてゆく。止められない。
ヘルデウスは悟った。
サタン達は悟った。
この因縁は、自分達が悪魔と呼ばれる限り、続いてゆくのだろうと。
この最初から望みもしなかった争いは続くのだと。
嗚呼。
……どうしてこんな闇の中を巡ってゆかねばならなくなってしまったんだろう…………
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