第9章 迷いの心、誓いの絆

「わかりました、そう言って下さるのなら!
私も、マオ様の事もっとよく知りたいですしね。だって噂に反して面白い方なんですもの!」
「そ、そのような事を言われたのは初めてだ……」
ほんのり頬を紅潮させながら、マオは馬に跨がった。
「では、夜に書物を持ってまた来る。
昼間は、お互い仕事があるし周囲の目が厳しいだろうからな……。
…失礼する」
「はい!お待ちしております!!さようならー!!」
馬上でチラと後ろを見やれば、遠くからいつまでも大きく手を振る彼女が見えた。
マオはこの時、胸に空いた穴が塞がっているのを感じた。

やがて二人は、学問を繋いで会う内によりお互いが親密になっていった。
身分を超え、ありのままに振る舞える関係に。
夜毎会うも肉体的な関係はなく、純粋な愛としてのだ。
このまま幸せな日が続くと、二人は信じて疑わずにいた。
しかし運命は、容赦なく若い二人に鞭打つのだ。
「どういう事‥‥ッ?!
マオく……茅様が、宮廷追放の上…お家断絶処分って?!!」
「香。あんた、知らないの?
茅様は人間じゃないわ。恐ろしい術を使う妖怪だったのよ」
「――――……!!!」
雑技団員の言葉が、深く胸に突き刺さる。
(そんなわけない……マオくんは優しかった!!
普通の男の子だったよ…!?)
「帝を襲った大勢の狼藉者を、とても人間のモノとは思えないチカラを放ち消し去ったそうよ。
…それも、一瞬のうちにね」
「彼は、人の皮を被った化け物だったのよ」
「お家断絶されたのは、そんな化け物を宮廷へ上げさせた家族に責任を問われたからですってよ。
…本人も殺さなかったのは、当然よね。あんなの、お役人様だって無気味で手をかけられないもの」
「いい気味だわ!今まであたし達を騙して、宮廷で政治を乗っ取って……!
貴族みたいな贅沢三昧な生活送っちゃってさ!」
「早くどっか行って欲しいわよね!!
なんであんな妖(あやかし)国外追放にしなかったのよ!!
その辺彷徨いてるかと思うと、気味が悪くて夜も眠れないわ!!」
「―――やめてっ!!!!」
突如悲痛に叫んだシアンに、団員達は一斉に振り返った。
彼女は、大粒の涙を流している。
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