第9章 迷いの心、誓いの絆

「‥‥最近、平和だな」
どこか遠くを見ながらマオは小さく言う。
それに賛同するように、隣でシアンは頷いた。
「そうだね。悪魔も来ないし、地上も超何事もないもんね」
「やるべき仕事は、己を見つめ鍛える事のみ、か……
エステレラめ。難しい事をさらっと言ってくれる」
「へぇー。やっぱ、マオくんほどの人でも難しいって思うんだ…」
シアンは感情のままに驚いた顔をし、少し身を乗り出した。
「斯様な心理的なモノは、一定の答えのある学問のそれとは違うのでな…。
正直、まだまだ手こずらされている」
そう。これは心理的な問題。
暗記すれば覚えられる、単なる学問の問いかけとは違う。
かつて科挙に14歳という若さで一発合格し、皇帝の宰相にまで登り詰めた経歴を持つマオでも、容易い問いではなかった。
「…“自分を解く”というのは…、大変難儀だな」
「そうだね…。でも、ボクは…マオくんは正しいと思う」
「……」
「あの日、マオくん言ったじゃない?
愛情や友情を求めるのは、人の本能だって…。だから、甘えではないって……。
ボク、この言葉はマオくんだから言えるんだと思うの」
「我だから、か…」
マオは、フ、と目を伏せた。
「では、我が汝を求めたのも‥‥。正しき本能であったな」
滅多に表情を変えない彼の微笑。
それを見たシアンの頬が林檎色に染まった。
「やだ、マオくんたら!
…なんだか、思い出しちゃうねえ。出会った時のこと」
7/17ページ
スキ