第9章 迷いの心、誓いの絆

「あら、あゆむ!奇遇ね。」
「やあ、みほ」
やがてあゆむは、みほと廊下でばったり出会した。
「うわー、大量の野菜‥。
どこから買ってきたの?」
「ううん、僕の家の野菜。
僕んち、野菜や果物を育ててるから…」
「へぇ。じゃあ、覚醒するまでは農家やって暮らしてたんだ?」
「うん。嬉しかったよ。
ただの農家の息子の僕が、これといった特技もない僕が、世界を担う大役に選ばれたことが…」
――ごめんね、天国のお父さん、お母さん。
――僕は、家業より世界を選ぶよ。
あゆむは胸の内で亡き両親に謝罪した。
「そっか…あたしも、似たようなものよ。
今まで自分の事、どこにでもいる普通の女の子だと思ってたから、ハカセに君はウォークマスターだって言われても最初はいまいちピンと来なかったもの」
「普通の女の子はモンスターと包丁で戦わないって言ったら怒る?」
「人間死ぬ気になりゃなんだってすんのよ。命がありゃめっけもんなの」
言い切ったみほは、どこか黒い笑顔だった。
すこぶる怖い。
「そ、そうなの…?」
「そーなのよ。普段物腰柔らかな人だってね、命がかかれば“どぁぁあーっ!!”“のああああ!!”て絶叫するんだから?」
「あはは…エディも必死だったんだろうね」
絶叫し逃げ惑う彼を想像し、あゆむは苦笑を浮かべた。
「でも、これからは地上にモンスターが出る心配もなくなったし‥‥チョルくんのおかげで」
「チョルくん、どうしてるのかしら…。また会えるといいんだけど」
「悪魔にいじめられてなきゃいいけどね」
「えー?あのチョルくんの事だし、逆に家来にしてそうよ?」
「あはは、それはない!
まぁいいようにされてるって事はないだろうね」
「絶対えばってる、えばってる☆」
みほとあゆむの想像通り、
「おい、ヘルデウスの野郎!!四天王の野郎!!俺お腹すいたとやけど?!
早よう飯にしんしゃいねっ!」
案の定、チョルくんは地獄でサタン相手に堂々としていた。
…腕組みまでして。
相も変わらずおかっぱ頭にパジチョゴリ姿だが、非常に端正な顔立ちに成長している。
「君ももったいない性格してるよねえ。
黙ってれば美しいのに」
「黙らんね、ルシファーの野郎」
チョルくんは、やれやれと肩を竦めたルシファーを横目に睨み付ける。
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