第8章 "甘さ"の犠牲

「信じてくれなくたっていいけどね。私、別に好きでヒドイ事したわけじゃないのよ。………。本当によ」
「サタンってのは、そう生まれただけで悪役に徹しなきゃならない生き物っすからねー‥。あー考えるとだるい」
「あたい、ほんとはいたいけな子供を拐うなんてちょっとなーとは思ってたんだよ?」
「まあ、これ以上は何もしないからさ。そう睨まないでくれ。
‥‥。お上の命令には、逆らえないからねえ。悪魔はツラいよ」
アスデモス、ベルフェーゴル、ベルゼバブ、ルシファーが言った。
「……そのお上の前で言うことか」
ふと声のもとを見やると、漆黒のマントを着た悪魔、ヘルデウスが立っていた。
「お目覚めだな。人間の子供よ。私は悪魔王ヘルデウス。
ここがどこか、把握できておるか?」
ヘルデウスの口調は、高圧的だが穏やかで恐怖は感じられなかった。
それをチョルくんは不思議に感じた。
「ここは、地獄の城。私や四天王の居城だ。
君には、ある事に協力してもらう為にここに来てもらった」
「チョルくんは、ただの人間だし。
はっきり言って、どげんもしきらんっちゅーか。お前らの役には立たんよ。
マジ無駄な努力やから」
「それは、どうかな……?」
意味深に呟き、ヘルデウスは聖域にテレパシーを送り始める。
――――“マナの女神と、それに仕える者達よ……”
「「「!?」」」
『…まあ、これはちょうどいい。こちらから、伺おうと思っていたところでしたのよ。
クォク・テチョルは、どうしていますか?連れ去った目的を言いなさい』
マナの女神は、不敵に言い放つ。
それが届いたのか、ヘルデウスも答えた。
――――“うむ、命に別状はない。安静にしておる”
『……そうですか』
――――“どうだ?マナの女神よ。地上からモンスターを退けてやらなくもないぞ。
その代わりに、地獄にも手出しはしない事だ。
…人間の子供の命が惜しくばな”
『――――……!!』
「ふざけないで下さいな!!卑怯者!!
今すぐチョルくんを返しなさい!!」
――――“ならば、イ・シェムルカよ。
そのクォク・テチョルにも訊いてみようか?”
「えっ‥‥‥」
――――“どうする?クォク・テチョル”
――――“…チョルくんは………”
テレパシーの声が変わった。
チョルくんの声を、ヘルデウスがテレパシーに乗せ伝えているのだろう。
一同が、黙って耳を傾ける。
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