第8章 "甘さ"の犠牲

『…こうなれば、私が直接ヘルデウスに譲歩するしかありません』
マナの女神は、落ち着いた、しかし怒りを含んだ冷たい声音でエステレラ達に告げた。
『何が目的か、はっきりさせ…再びあの子をこちら側に』
「人間を守るのも、我々の重大な使命…。
チョルくんを危険に晒してしまったのは、僕らの責任だ。必ず助ける」
マナの女神、エステレラが言った。
「あいつら、言ってた…。
あたし達の弱点は、愛や友情にすがる甘さだって…」
みほは、震える手を握り締めた。
「それは、あいつらの言う通り、あたし達が子供だから……?」
「それは違う。我々は、覚醒する以前は人間であっただろう。
人は、一人では生きてゆけない」
「…その本能を、利用されたって事ね」
「ふざけやがって……!あんな奴らに、人の複雑な心がわかってたまるか!!」
マオ、シアン、タオが言った。
「繊細な人の心を弄んで、赦されるわけがありません。
必ずや、制裁を……マナの女神」
マナの目には、静かな怒りが秘められていた。

気がつくと、チョルくんは寝台の上にいた。
ぼうっとする頭で、見慣れぬ天井を見つめ必死に考える。
(……ここ、どこと……?)
「あー良かった、ようやく目が覚めたね!!」
「?!」
自分の寝てる寝台の近くには、悪魔のベルゼバブが。
驚きのあまり、チョルくんはガバッと起き上がった。
「ま、あんだけキッツイ魔術くらえば気絶すんのも当然っすよね」
「だが、大丈夫そうで何よりだ。美しい者は、本来丁重に扱わねばなるまいからね」
「ごめんなさいね?ちょっとやり過ぎたみたい。
もうちょっと寝てていいのよ」
謝罪し、気遣ってくれる四天王。
先程の悪質な彼らとの豹変ぶりに、チョルくんは疑問を感じた。
「…お前ら、いったい何がしたかと。
さっきと態度変わりすぎだし。キモかよ」
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