第8章 "甘さ"の犠牲

「……!!」
目の前で膨れ上がり広がる邪悪な魔力に、チョルくんはなすすべもなかった。
恐怖からか、足が動かない。
「「倒れろ!!」」
ベルフェーゴル、アスデモスの声を合図に黒い魔力の塊が放たれる。
「わあぁ!!」
魔力はチョルくんを飲み込み、大爆発を起こした。
しかし、チョルくんの体には傷ひとつない。
かけつけたエステレラが、一瞬の間に魔法で巨大な盾を作り出し護っていたのだ。
「エステレラ!」
「無事かい?チョルくん」
「チイッ……!あんた、どこから!」
「よくも邪魔を…そんなめんどくさい事する奴は、許さねえっすよ」
「許さないのは、こっちの台詞だ。
神殿からサタンの気配がするからと、来てみれば……
地獄と天上界のいざこざは、この子にはなんの関係もない。巻き込むのは許さないよ」
エステレラは静かに敵を睨む。
「それが、あるんだよねー。マナの一族と関係を持った時点で。
そもそも、あなたが連れて来たんでしょ?マナの女神もそれを許したって聞くし~…」
ベルゼバブが、「う~ん」と小首を傾げる。
「…やっぱり…。来ちゃいかんかったんかな」
「…チョルくん?」
「普通の人間がこげんとこにおったら、迷惑になるんかな…皆は、居ってもよかっち言うてくれるけど…」
「チョルくん、悪魔の前で弱さを見せちゃダメだ!!」
「……………」
「…そうそう、弱みは付け込まれるもとだよ?」
俯いているチョルくんの顎を、ルシファーは指を使い自分と目が合うように持ち上げる。
「君も、大変だよねえ。あんな化け物達と一緒に暮らしてて、浮かなかったかい?」
「…あいつら……。
あいつら、チョルくんとなんも変わらん…泣いて笑って怒って悩む、普通の子どもなんだし!!」
そう、普通の子ども。
共に生活し触れあうなかで、痛感した。
ほんの少し、人より大きな使命と能力を携えているだけで………。
―――みんな、ただの子どもだった。
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