エピローグ~新たなる世界~

「エディもやるよね~。
コリア区域の宮殿にお呼ばれするほど、有名なピアニストになったんだから?」
「へへっ…。宮廷外交顧問の副業とはいえ、嬉しいです。
宮廷の王女様は、それは綺麗で愛らしいお方でしたよ。
ただ……。ちょっとばかり、お腹が黒かったけれどね……。
うん。お優しい方ではあるのですが……うん…」
心なしか、エディの顔は若干青い。
宮殿で何があったというのだろうか。
「あははははっ!イルカなんてそんなもんさ☆」
ハカセは、ケラケラと笑った。
今でも彼女にたまに面会すると、良くも悪くも変わらない姿が見れる。
それはハカセにとって嬉しい事だった。
「?イルカ……?
海にいる、あの可愛いのですか?」
「違う違う、イ・シェムルカ姫のあだ名♪」
そんなやり取りをしている時。
「ちーっす!ハカセ~!!
遊びに来たわよ!!」
バーンと扉が開く音と、元気な少女の声に、二人振り向く。
まさかエディがいるとは思ってなかったらしく、少女は恥ずかしそうにペコリと気まずげな苦笑いを彼らに向けた。
「やだ、あたしったら…。ごめんなさい。
邪魔しちゃった」
「やあ、みほ!これ、お客さんだよ!」
「嫌ですね~ハカセ。
私の名前は“これ”じゃなくてエディオニール・フランソワですよ」
「えと、エディ、オニ……?フ、ラ………?」
どうやら、聞き取れなかったようだ。
エディは改めて、彼女に自己紹介する事にした。
「はじめまして。マドモワゼル。
アムール区域より参りました、エディオニール・フランソワ・ド・ラフォレ・ダンジェラードと申します。
エディ、と呼んで下さいね」
胸に手を添え、穏やかに微笑む彼の気品と容姿に、少女は若干戸惑うがすぐに切り替えニッコリ笑い返した。
「よろしくね、エディ!
世渡みほよ!
この近くの中学校に通ってるわ。今日は休みなの!」
「へえ。学校かあ。いいなぁ~。
私は生まれてこの方、家庭教師にしか習ったことありませんよ」
「まぁ貴族だもんねー」
ハカセは、紅茶を飲みながら言う。
「貴族……。貴族か…。
貴族って、しもじものあたしには、普段何してるのか想像つかない…」
「アハハ…。私の家は、代々外交的職業に就いていましてね。
私は、たまに宮廷に赴いて外交員をしているんですよ。あと、副業でピアニストね」
「ああ、どっかで見たことある顔だと思ったら……!!
あの外国の天才少年ピアニストって、エディだったんだ!!」
「天才だなど……。恥ずかしいな」
エディは、頬をリンゴ色に染めて照れる。
「それでなくても……。
……いえ、ごめんなさい。なんでもないわ」
「なんですか?なんでも構いませんので、言ってみて下さいよ。ねっ?」
ニコニコと透明感ある貴族に柔和に微笑まれたのでは、みほも折れざるをえない。
相手がどう思うかを覚悟して、みほは話す事にした。
「あのね…初対面で失礼な話なんだけど、エディが有名じゃなくても、なんとなくどっかで見たというか、出会った事がある気がして…。
なんだろ。別の人と間違えてるのかしら?」
(へえ。やっぱり、もともと仲間だったんだし惹かれあうもんなんだ…)
ハカセは、心で呟いた。
みほの台詞に、エディは多少驚いていたようだが、彼女を否定する事はしなかった。
むしろ、彼も―――‥‥。
「私も…です……。
女の子に言ったら失礼かなと、心の中にとどめておいたのですけれど……。
なんだかあなたには、キラキラした何かを感じるな」
言いながら、エディは嬉しそうに笑む。
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