エピローグ~新たなる世界~

「………」
今朝また、あの夢を見た。
着物の女王は流れる黒髪を結わえながら、物憂げに目を伏せる。
夢に見たあの14人の少年少女は、一体誰だったのだろう。
見たこともない美しい神殿で、自分が彼らと笑い合っていたあの夢。
不思議だが、悪い気はしない。
むしろ、心地好い夢だった。
自分は、彼らとどこかで出会っていたのやもしれない。
いつも夢で会う、不思議で大好きな“友達”。
たとえ空想や絵空事に過ぎないと言われるような事であろうと、女王にはまるで真実にあった光景のように思えてならないのだ。
「あゆむ…チェン……。タオ……。アダム……」
女王は、切なげに“友達”の名を呟く。
「ホト……、マナ……イリスェント……。シアン…みほ…。エディ……ミンウ……。コルちゃん…。イルカ…。マオ……」
夢の中で、名前まで知ってしまった彼ら。
自分は、彼らを知っているのだろうか。彼らと、生活していたのだろうか。
(そなた達は、誰なのじゃ…?
わらわは、あのような輝かしさの中にいたのか…?
……。これは、空想などではなかろうの。
以前、もしかして…いや、絶対に会っていたに相違ない。
どこでも、いつでも良い……遠き前世か、何かで…)
窓から射し込む陽光の中、彼女はふっと瞳を柔らかに細めた。
さあ、これから仕事だ。がんばろう。
“友達”と、共に。
「行って、きます」

「おーい!あゆむ!」
「あっ、ハカセ!」
ナスを収穫する手を止め、少年――あゆむは顔を綻ばせた。
畑の中に駆けてきたハカセの目に映ったのは、農作業の影響から土まみれになった彼の姿。
汚れてはいるが、それが彼の充実した生活なのだ。
そう、あの頃より充実した生活。
「相変わらずがんばるよね~。
学校から帰ったら、すぐお父さんやお母さんのお手伝いなんでしょ?」
「だって、後取りだもん?
もっともっと、野菜や果物の事、覚えなくちゃ」
「……。ねえ。あゆむ」
「何?」
「もし、自分がさ。
精霊か何かで、そんなチカラに目覚めて、この世界の為にたくさんの仲間と天上で住むようなことになったらどうする?」
今はもう、マナ一族はいない。
伝説上にも、天上にも。
だがハカセには、まだウォークマスターの彼が目の前にいる気がしてならなかった。
「あはは。何それ。マンガの話?」
あゆむは、笑ってそう答えた。
「それに、僕がそんな大それたモノになんて選ばれたとしても、僕はこの畑を手放さないよ。
でもその分、選んでくれた人の役に立つよう頑張るかな。
そんな人生も、楽しそうだとは思うよ?」
ああ。やはり彼は、変わらない。
前世そのままの、まっすぐで誠実なあゆむだ。
彼は間違いなく、この新しい世界で幸せを築けるだろう。
ハカセは心からそう思った。
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