エピローグ~新たなる世界~

「いい?アディー。この世界には、“MANA”というものがあってね…」
ユーエスエイ区域のある家では、女性が小さな少年に聖書を読み聞かせていた。
ページを捲りながら、膝の上の少年にその内容を語る。
「“MANA”?」
「そう。マナよ。
私達を見守り、世界に命を与える見えない輝き。
女神様や天使達が司っているのよ。
…アダムには、まだ、難しいかな?」
「んー、なんとなくわかった。
お姉ちゃんの言うそれって、優しいものなんでしょ?
大事なものなんだよね」
「そうよ。頭いいわねアダムは?」
女性は柔らかに微笑み、少年の頭を撫でた。
少年はくすぐったそうにはにかんだ。
「日曜日にまた教会にみんなで行くから、その時また神父様やシスターからお話を聞けるよ。
アディー、ちゃんと聖歌ぜんぶ覚えた?」
「あっ、まだ覚えてない……!まだ半分だけ」
「もぉ~。しょうがないわね、アディーは」
少年は反省の苦笑いを浮かべ、テヘッと少し舌を出す。
「よーしっ、じゃあお姉ちゃんが教えてあげる!
しっかり聞くのよ?」
「わぁーい!!お姉ちゃん大好き~っ!!」
少年は、嬉しそうに女性に抱きつくと右と左の頬にキスをした。
女性も、彼にハグとキスを返す。
「じゃあ、ピアノのある部屋に行きましょ!」
「うん!!」
平和な空の下、聖歌のメロディが町に流れる。
その幸せの音色は、天上の者達を癒した。

その頃、美花区域の一校は昼休みを迎えていた。
「よっ、チェン!来週の歴史のテスト勉強、始めてるか!?」
少年が、ニコニコと気さくな笑顔で少女に声をかける。
少女は、バッチリだとばかりにニッと笑み返した。
「うん、もちろん!
――MANA暦1018年!」
「う゛……。えーと…」
ビシッと出された問いに、少年は答えを思い出せず詰まる。
「戴茅、戴香が、徳久家永に巻物を献上し、倭区域に自国の文化を伝えた!
世歩歩人、世歩マナと親交が始まった!」
「あ、ああ、そーだったそれだ!」
「これ、出やすいみたいだよ?
今から覚えといて損はないよ」
「……。
マオ……。シアン……。ホト…。マナ……。
変だなあ。この名前、妙に懐かしく感じる。
教科書に載ってる顔も、どっかで見たことあるよーな気がするし…」
「えっ、タオも?私も……。
おかしいよね。会った事もない、歴史上の人物なのに……」
少年と少女――タオとチェンは、不思議そうに呟く。
「あっ!もしかして、前世会ってたんじゃねーの!?
共通の友達とかだったりして!」
「あははっ!それ面白いね!
でも私は、今みたいな平凡な人生がいいなぁ。教科書に載ってるのって、みんな偉い人だもん」
そう楽しそうに言いながら、チェンは教科書を開いた。
「さて、問題!
徳久家永はどんな人物か述べよっ!?」
「え、ええ、えーっと‥‥。
“武家と公家の結婚を認めさせた、豪快で親しみやすい人柄の文武両道者”!」
「世歩歩人は!?」
「“初めて公家と婚姻を結び、常に徳久家永の傍らにいた武芸百般の小姓”!」
「戴茅は?!」
「“美花区域と倭区域を繋いだ、民の為に尽くした厳格で心優しき宰相。14歳で科挙に合格し、18歳で宰相に登り詰めた貴族出身者”…。
もうカンベンしてくれ~っ!!頭いてーよおー!!」
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