第17章 幸せをありがとう
アムール区域に建つ研究所から、ピアノの音色が流れていた。
荘厳で清らかな聖歌のメロディー。
その音を生み出すのは、一人の少年だった。
あと数十年、残された時間。
戦う事もせず、好きな事を考えて暮らしていれば良い。
気にかける事といえば、友人の事だけだ。
そう、友人の―――……。
ピアノの鍵盤に乗せた手を止め、エディは憂いに沈む。
(みほ………皆…)
「続き、ひかないのかい?」
「!?」
突然横からかかった声に、目を見開きエディはその方角を振り向く。
自分の近く、右横にルシファーが立っていたのだ。
エディはびっくりして、目の前の光景を穴が空くほど見つめてしまう。
そんな彼に、ルシファーは苦笑した。
「なんだい、幽霊にでも遭遇したような顔をして」
「な…ぜ…。ここに……」
「退屈しのぎに、遊びに来たんだ。
伝来ハカセはいないから帰ろうかと思ったが、こちらの部屋からピアノの音が聞こえて来たから…。
良かったら、続き、聴かせてくれよ」
「あ、ああ……。ええよ」
ぎこちなく少しだけ笑み、エディは再び鍵盤を弾く。
美しく耳に残るメロディーが、鍵盤の上で軽やかに動く大きな白い手により生まれる。
「凄いね。ピアノって、こんな神秘的な音が出せるんだ」
「へへ……。今、気分のままに好き勝手ひいとるんやけど、ちゃんと曲になっとるなら良かったわ」
「じゃあ即興曲か。これは美しい音楽だ。
来世は、ピアニストにでもなればいいのに」
「あはは…。そうしよかな。
わい、後継ぎやし…副業でもええさかい、やってみたいわ。
いろんな曲書きたいな~」
「夢が広がるねえ」
二人は次第に会話が弾み、わだかまりが溶けて行く。
もう敵ではないのだ。
警戒し合う必要などない。
許したい。
「…いつかは、すまなかったね。
殺さなかったとはいえ、君の両親を。
憎しみにとらわれていたといえど、本当に酷い事をした」
ルシファーは、ポツリと謝罪した。
まだまだ純粋さの残る17の少年に対し、残酷すぎる行為をしてしまった。
あそこまで来るのに、彼はどれほどの勇気を要しただろうか。
「もうええんよ。だって、お父様もお母様も生きとるもん。
気にせんと、そろそろ楽になってや」
今となっては、もう責める必要はない。
エディは心からルシファーを許していた。
「ありがとう……」
エディの優しい顔と音色に救われ、ルシファーは微笑む。
「そうだ。話は変わるが、これ覚えてるかい?
私達、君が完全に覚醒する前に1度出会っていたんだよ」
「え!?知らへん、覚えとらん」
「サロンでいろいろ話したじゃないか。音楽とか文学とかについて。
ヘルデウス様のご命令で、君を監視してたんだよ」
「ああ、あの方か……。全く気付かなかった…」
「そりゃあ、人の姿を借りてたからね」
そう。かつてルシファーは、人間の貴族に変身し、未来の宿敵を見ていたのだ。
衝撃的な事実に、エディは静かな驚きを感じている。
荘厳で清らかな聖歌のメロディー。
その音を生み出すのは、一人の少年だった。
あと数十年、残された時間。
戦う事もせず、好きな事を考えて暮らしていれば良い。
気にかける事といえば、友人の事だけだ。
そう、友人の―――……。
ピアノの鍵盤に乗せた手を止め、エディは憂いに沈む。
(みほ………皆…)
「続き、ひかないのかい?」
「!?」
突然横からかかった声に、目を見開きエディはその方角を振り向く。
自分の近く、右横にルシファーが立っていたのだ。
エディはびっくりして、目の前の光景を穴が空くほど見つめてしまう。
そんな彼に、ルシファーは苦笑した。
「なんだい、幽霊にでも遭遇したような顔をして」
「な…ぜ…。ここに……」
「退屈しのぎに、遊びに来たんだ。
伝来ハカセはいないから帰ろうかと思ったが、こちらの部屋からピアノの音が聞こえて来たから…。
良かったら、続き、聴かせてくれよ」
「あ、ああ……。ええよ」
ぎこちなく少しだけ笑み、エディは再び鍵盤を弾く。
美しく耳に残るメロディーが、鍵盤の上で軽やかに動く大きな白い手により生まれる。
「凄いね。ピアノって、こんな神秘的な音が出せるんだ」
「へへ……。今、気分のままに好き勝手ひいとるんやけど、ちゃんと曲になっとるなら良かったわ」
「じゃあ即興曲か。これは美しい音楽だ。
来世は、ピアニストにでもなればいいのに」
「あはは…。そうしよかな。
わい、後継ぎやし…副業でもええさかい、やってみたいわ。
いろんな曲書きたいな~」
「夢が広がるねえ」
二人は次第に会話が弾み、わだかまりが溶けて行く。
もう敵ではないのだ。
警戒し合う必要などない。
許したい。
「…いつかは、すまなかったね。
殺さなかったとはいえ、君の両親を。
憎しみにとらわれていたといえど、本当に酷い事をした」
ルシファーは、ポツリと謝罪した。
まだまだ純粋さの残る17の少年に対し、残酷すぎる行為をしてしまった。
あそこまで来るのに、彼はどれほどの勇気を要しただろうか。
「もうええんよ。だって、お父様もお母様も生きとるもん。
気にせんと、そろそろ楽になってや」
今となっては、もう責める必要はない。
エディは心からルシファーを許していた。
「ありがとう……」
エディの優しい顔と音色に救われ、ルシファーは微笑む。
「そうだ。話は変わるが、これ覚えてるかい?
私達、君が完全に覚醒する前に1度出会っていたんだよ」
「え!?知らへん、覚えとらん」
「サロンでいろいろ話したじゃないか。音楽とか文学とかについて。
ヘルデウス様のご命令で、君を監視してたんだよ」
「ああ、あの方か……。全く気付かなかった…」
「そりゃあ、人の姿を借りてたからね」
そう。かつてルシファーは、人間の貴族に変身し、未来の宿敵を見ていたのだ。
衝撃的な事実に、エディは静かな驚きを感じている。