第17章 幸せをありがとう

「天使かあ。うん、美しい私にぴったりだ。
いいじゃないか。エステレラみたいでさ」
傲慢の悪魔が、傲慢たっぷりなセリフを吐きながら嬉しそうに腕組みしウンウン頷く。
『アハハ、ファルさん美形だもんのー』
「レオ…。それ、何ナルシストなこと言ってんのって言われるよりツラいもんがあると思うっす…」
『?別にイヤミでねえよ?』
「僕とお揃いだね。女神様、僕の記憶はもちろん来世でも引き継いで下さいよね?」
エステレラもニコニコと嬉しそうだ。
「私も、頼む。天使となっても記憶はそのままにしてくれ。
だが……」
そこまで言い、ヘルデウスはチョルくんやマナ一族達に目配せした。
「彼らは、どうするのだ?」
「そうよ……!あたし達、このままサヨナラなの!?
そんなのイヤよ!!」
『まさか。貴方達には、まだまだ神殿にいて頂きます。
いつかは、今度は普通の子どもとして、そっくりそのまま同じ時代に同じ命を創らせて頂きますが…』
「普通の……」
1度は望んだ事実。
しかし、築き上げた友情の前に改めて来るとなると素直に喜べない。
「でも、我が輩、マナ一族になれたから皆と出会えたのである…マナ一族じゃなくなったら、またひとりぼっちになるのである!!」
「そうだよ!!ダディーもマミーも、お姉ちゃんも……っ」
『大丈夫。貴方達に損はさせません。
身勝手を言った分、必ず、良い運命を紡ぎます。
それに……。あの子の人生も、見守ってもらわなくては』
マナの女神は、チョルくんの方を優しい顔で向いた。
「……。俺……。
俺は………」
チョルくんは、決断を降した。
「俺は…。こん時代ん人間として、地上で天寿ば全うしたか。
女神様、お願いします」
もう、誰にも引け目を感じることなく、この世界に生まれた一人の人間として。
『わかりました…。では、全ての種族がいがみ合うことのない新たな世界を見れるのは、もう数十年後ですね』
「はい。勉強して、働いて。人間としてこの世界を見続けたいんです。
もう大丈夫だし。これからは1人で立てる」
「でも、地上に行けば、あなたは独りになってしまうわ……」
「なんば言っとーとですか、姫様?」
心配そうなイルカに、チョルくんは強い笑顔を見せた。
「例え今日を最後に会えなくなったとしても、今日の想い出は、俺の想いは誰にも消せやしない。
みんな繋がってるんよ。みんなで世界を動かすんよ」
「チョルくん……。
…………。
お願い、エイレンテューナ!!あたいの記憶も消さないで!!」
「私のも…っ。一生のお願いだからエイレンテューナ、天使になった来世でも、チョルくんの記憶を!!」
「悪魔だった思い出を、忘れたくないっす!
友達のこと忘れたくないっす!!」
「頼むよ!悪魔の記憶を残したまま、天使に転生を!!
何でもする。どうか!」
口々にマナの女神に頼み込む四天王。
「なんねお前ら…!バカじゃなかと!?
幸せな記憶だけで生きとうはなかとか!?」
チョルくんは目頭が熱くなるのを感じた。
「そんな口の悪い君を、みーんな忘れたくないんだよ?
僕も含めてね」
エステレラは、チョルくんに右手を差し出す。
とびっきりの笑顔で。
「いずれ君の命が絶えても、本当に死ぬ事はない。だって、僕らが“クォク・テチョル”を覚えてるから!
君は僕らの世界からいなくならない。
君の言う通り、皆で世界を動かすんだ!
チョルくん、大好き!!ずっと友達!!」
「あったり前だし、そんなんっ?」
チョルくんは、差し出された右手を握った。
この手の体温を、永遠に忘れまい。
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