第17章 幸せをありがとう

「次はどちらだ!?」
地獄の冷たい道を駆け抜けながら、マオが方角師達に問う。
「このまま北や!!」
「そしたら次に湖が見えたところで、西に進むの!!」
「それから、次の湖が見えたらずーっと南に直行!!
そしたら超自然と城に着くわ!!」
「…うむ!」
マオは、了解の意を示さんと頷く。
あゆむが、走りながら後方を振り向いた。
「皆ッ、ついてきてる!?
もっとスピード出しても大丈夫!?」
「そうね、大丈夫?!ウォークマスターのあたし達はいいけど、皆は体力に限界があるから…」
「平気だ!」
「まだ、走れますっ!」
「我が輩達に気遣うことなく、城へ急ぐのである!!」
タオ、ミンウ、イリスェントがそれに答える。
中には息を切らせる者もいたが、それでもしっかり走り続け目は真剣そのものである。
「…頼もしいぜ皆の衆!」
ホトは、仲間の戦意に自分も沸き上がる何かを感じた。
その時、
『ゴギャアアアア!!!!』
「「「「「!!!?」」」」」
空高くからの聞き覚えのある咆哮に、黒い大地が、空気が揺れる。
これは、あの火竜のものに相違ない。
悟った後すぐに、皆一様に五感を研ぎ澄ました。
―――これは……。囲まれている!
やはりそうだ。
自分達の四方八方は、ハエ騎士団に取り囲まれている。
それぞれ、東西南北の方角の空には指揮官たる四天王が。
ピリッと張り詰めた空気に、アダムは息を飲んだ。
「あらあら‥‥、ダメじゃない竜太郎。
お客様をびっくりさせちゃあ」
見覚えのある火竜の上で、アスデモスがわざとらしい皮肉めいた口調で彼女のペットの頭を撫でる。
「良かったわねえ。いっぱいお友達が来たわよ。
後でたっぷり遊んでもらいましょうねー」
「いつ友達になりましたのよてめぇ…」
イルカが、警戒しつつイライラとツッコむ。
「おお、なんという言葉遣い!美しくない」
ルシファーが演技的に片手で額を押さえる。
「……お黙りなさい」
「イライラしないの。若いうちからフケちゃうよー?」
空上から、ベルゼバブがイルカに無表情で言った。
「…それにね。こっちだって怒ってるの。
今まであたい達をジャマするのみならいざ知らず、今度は地獄にまで乗り込んで来た。
どこまであたい達を否定するつもりなの?!!
この寒い世界で、ジッと永遠に耐えてないと、あたい達は生きている資格さえないの?!!!
許さない!!!!もう、許さない!!!!!」
ベルゼバブは、人が変わったかのように声を荒げ、激昂する。
今日この時、彼女の何かが爆発し、初めて形となって表れた。
仲間であるサタンはおろか、マナ一族でさえ初見の、ベルゼバブの激しい憎悪の形。
「………おいら、仲良くなれない奴はいらない」
ベルフェーゴルが、ポツリと低く呟く。
「…だから、おめえらもいらない。
1000年前に言った事、忘れたとは言わせねえっすよ」
「何千年かかろうとも、この世界から殲滅してやると?
上等じゃ」
ふっとヒミコは不敵に笑んだ。
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