第16章 幾つもの日々を越えて

「言っておくが、汝からのであればごめんこうむる。
我はおやつで忙しいのだ」
「マオ、それポーカーフェイスで言うセリフじゃねぇポーカーフェイスで…」
「……女神様からのなんですけど…?」
口元をヒクヒクとひきつらせ、みほは告げる。
「ケホケホッ、ゴホッ‥‥
…え、女神様?」
「そうよ、女神様から皆に召集令が出たの。あたしはそれを伝えに来たのね。
…ミンウ、大丈夫?」
「は、はい……。
その……。すいません……」
ようやく落ち着き、ミンウは恥ずかしそうに俯いた。
「女神様からの召集令やったら、行かなアカンね。
おーきに、ミルフィーユ」
(……?この男、なにケーキにお礼言ってるのかしら?)
おそらくミルフィーヌと言いたかったのであろう、重大な所を言い間違えながら席を立つエディ。
みほは内心小首を傾げた。
「うっし、そういう事なら行くかそういう事なら」
ホトは片方の掌にパシンと拳をぶつけ意気を高めると、離席した。
「行くぜマオ」
「わかっている」
マオも静かに席を立つ。
「…。ついに何か、あったのでしょうか……戦争中なんだから、当たり前か」
ごちそうさまでしたと呟き手を合わせると、ミンウも席を離れる。
未来を愁えた、だが、覚悟を決めている“男”の顔で。
「お片付けは後ででいいですよね?エディさん」
「…あったり前やっ」
そのやり取りを皮切りに、5人一斉に駆け出し部屋から飛び出した。

「…。しかし、なんだな。
初めてだな」
「なにがですか?ヘルデウス様」
「あの意見を出した者が初めてなのだ、お前がな。ベルゼバブ」
ヘルデウスの言葉に、ベルゼバブはそうだろうなと納得した。
ベルフェーゴルにルシファーという、地獄の頭脳派《ブレーン》が二人も揃っているのだ。
そして、文武両道のアスデモスも。
あれしきの作戦、思い付かないハズがない。
それなのに、今まで誰一人として実行せんとしなかったのは―――…。
「…チョルくん…」
「うむ。皆、彼を気遣ったのだろうな。
彼は、どう何度も頭を切り替えようと人間でしかないのだから。
気丈に振る舞ってはおるが、私達には全て分かる。
だからと言って、戦争を遅らせるわけにも……」
「ヘルデウス様。あたい、提言した時から迷いはありませんよ」
ベルゼバブは毅然とした態度だ。
「何と引き換えても勝たないと。最後の最後なんだから。
そうじゃなきゃ、生まれてきて良かったって言えない」
そう言ったベルゼバブは、瞳、態度、言葉から将軍の風格を宿している。
感じ取れる。
「今のあたいの生きる理由、それしかないんだもん。
いくらおやつが美味しくても、友達とお買い物を楽しんでも、それだけじゃダメなんです。
ヘルデウス様や皆の心に、陰を落とす現実がある。
それを打破しない限り、あたいは絶対に幸せになれません。
チョルくんだって、それをきっとわかってくれてるはず」
「‥‥お前は、地獄で一番頼もしいサタンだな」
「えへへ」
この目の前で笑む小柄な女性が、自分より逞しい事実。
悔しいが、心強かった。
そして何より、背を押される。
「今度こそ、皆で幸せになろう」

聖域、女神とエステレラのもとにはマナ一族が総勢集った。
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