第15章 友情の狂詩曲

「…………」
発動しない魔術。
このまま自分は、おめおめと敗けを認めざるを得ないのか。
ベルフェーゴルは、わなわなと震えがくりと地に膝をついた。
「……殺せちゃ…」
「…………」
「殺せちゃ!!さっさど殺せちゃ!!
このまま生き恥さらさせで、それでも天使が?!!」
何もしないエステレラに、ベルフェーゴルは血を吐くように苦しげに叫ぶ。
そんな彼に対し、エステレラは静かに告げた。
ただ一言を。
「まだ人を信じれる可能性のある君を殺しては、それこそ天使失格だ。
…その訛り、素敵だから大切にした方がいいよ」
「…………」
ベルフェーゴルは渦巻く負の感情を押し込めるように口を真一文字に結び、エステレラに鋭い目を向ける。
「……人間は、大きな欠陥を抱えている神の被造物。互いが互いに仲良く出来ない生物。愚かに出来たそいつらを、信用すると思ったら大間違いっす。
…おめえら、マナの者もの……。
何千年かかろうとも、必ずこの世界から殲滅してやる」
低くそれだけを伝えると、ベルフェーゴルは漆黒の翼をはためかせ地獄に向かい飛び去りゆく。
風の如きスピードで、あっという間に彼の姿はいずこかへ見えなくなってしまった。
「…彼は、一体…」
ベルフェーゴルの去って行った方を見上げたまま、あゆむが呟く。
「あまりにたくさんの出来事が、起こりすぎた…」
「本当だね……。
あの、助けてくれてありがとう」
チェンが、ヒミコとエステレラに礼を言う。
「なに。仲間なのだからの。
間に合って良かった」
「地位を捨ててまで……。ありがとうございます」
あゆむも、彼女に礼をした。
「敬語は要らん。タメで話そうぞ」
「あ、はいっ…じゃなくて、うん!
ヒミコ!」
「ヒミコ……ヒミコか……。良い響きじゃ」
ヒミコは、満足げな笑みを浮かべる。
これまで王族として生きてきた彼女にとって、呼び捨てで名前を呼んでくれる者など希少であったからだ。
「お主達の事は、すでに存じておる。
そこに居わす、天使の正体も‥‥‥」
ヒミコは、エステレラをチラと見やる。
「あはは‥‥、バレてたか。さすが“巫女”だね」
「なんなんだよ。説明しろよ」
タオが突っ掛かるが、エステレラは意に介さず説明を始めた。
「ごめんごめん、ワケわからないよね。
僕は、エステレラといって、マナの女神の右腕天使。
代々、マナの一族を導く役割を持ってるんだ。
ゆえに―――」
エステレラの姿が、光に包まれて変化する。
人間の少年の姿に。
「地上では、“伝来ハカセ”としてマナの子達を引き合わせたり見守るお仕事してまーす☆」
「はっ…ハカセーっ!!?」
あゆむは、狐に化かされたような気分になり思わず叫んだ。
「ハカセって天使だったの!?
そりゃあ、僕の小さい頃からずーっと子どものまんまだったし、おかしいなあとは思ってたけど…っ!!」
「フフフ。何千年か年食っていながら、こんなにピチピチした永遠の少年なのさ☆
若さっていいものだよね~♪」
(話しかけなきゃ良かった…)
(天使様ってこんななんだ…)
タオとアダムが胸の内で独語する。
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