第15章 友情の狂詩曲

「……レオ……。おめえ……。
なんとも思わないんすか……?」
「……?」
「…その…“ベルフェーゴル”の、挿し絵……」
――おいらに、似てると……。
ベルフェーゴルは、震えた声で訊ねる。
体が強張って、上手く声が出せない。
例え悪魔とわかっても、今の関係を断たないで欲しい。
そんな想いが強すぎて。
「……あ………」
玲音は、突然戸惑いの表情になる。
先ほどの挿し絵は、悪魔の翼こそないもののベルフェーゴルそっくりだったのだ。
だが、玲音は必死に否定した。
親友が悪魔だなどと、考えたい人間などいない。
「あ、悪魔が目の前さいるわけねえで!!
フェルが‥っ、ベルフェーゴルなわげねぇ!!
他人の空似や!!」
「………………」
そんなに怖れた顔をしないでほしい。
ベルフェーゴルの気持ちは沈んでいくばかりだ。
「…そんなに、悲しまねで。
俺が悪かったぞ……」
玲音は、恐怖から悲しみの顔に変わると、しゅんと謝罪した。
「あんなん、たまたまだぞ。きっと。
もう寝ようぜ。フェル。今日は側にいてほしいな」

その翌日。
ベルフェーゴルは、玲音に頼まれておつかいに行った。
玲音に渡された買い物メモを見ながら、八百屋を目指す。
(何々。ニンジン、ピーマンと…じゃがいも……)
やがてベルフェーゴルは、メモからふと目を離した。
気が付いたから。
自分を見つめる、周囲の目に。
「あれ……。こないだよその区域から配られた、聖書の挿し絵の…」
「馬鹿!悪魔がこんな場所さいるわけねぇろ!!
おめえ、よその区域から新しい宗教伝えられたばっかだからってビビりすぎだ!!」
「…でも……。あの目の不気味な感じや顔立ち……」
「あの人から、寒気がする……」
「んなわけあっが!気のせいに決まってる……!」
自分を見る、目、目、目。
人の苦手なベルフェーゴルは恐怖にかられ、変身が融けてしまった。
洋服は全身漆黒の装束に変わり、耳は大きく尖り、背から不気味な翼が生えてくる。
(やだ、やだ、やだ………!!!!!)
それを見た周囲の人間は、ざわめき、騒ぎ始めた。
「悪魔だ!!悪魔だぞーっ!!!!」
「キャーーーーーッ!!!」
(どうしよう……このままじゃ……任務が…)
ベルフェーゴルは、混乱する頭と震える体で必死に考える。
(誰か………)

「ん~、俺も心配性だのぉ~。
初めての土地だしの。ちゃあんとおつかい行けてっかな?」
玲音は、ベルフェーゴルを探しキョロキョロと町を見渡す。
「いやぁ~、参るのぉ~~。
俺ってなんて友達思いだあんろ?
うしっ。あいつさはバレねぇようして、コッソリ――‥‥」
すっかり探偵か何かの気分を味わっている玲音。
もといストーカー未遂。
キョロキョロしていると、どこからか騒ぎ声が聞こえて来た。
「?何だろ?」
好奇心からそこに行って見た物は、騒ぎ立てる群衆。
その中心に、見覚えのある青年。
「なあんだ、何しったなフェル?
皆どご騒がせで。さては何かトラブったあんろぉ~?
ほら、俺んとこさ来い?もう大丈夫ださげ」
駆け寄った時、玲音は硬直した。
「――――――ヒ‥‥ッ‥!」
朧気にしか確認しなかった為気づかなかったが、親友の姿は………。
「………ベルフェーゴル………!」
地上の親友は、助けに来るのをやめ畏怖と絶望の眼差しを向けた。
群衆の悲鳴や罵声に加えられたこのショックに、ベルフェーゴルの精神が崩壊した。
「――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならぬ声を上げ泣き叫ぶ悪魔から、闇が渦巻く。
あっという間に町は、建物も人も何もなくなってしまった。
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