第15章 友情の狂詩曲

「……綺麗なままにしようよ。
家族との思い出は、綺麗なままに」
チェンは哀しく微笑んだ。
「コルちゃんは、家族の事が好きだから…、苦しんでるんだよね?
真実を告げたら、コルちゃんの家族はきっと戸惑う。
あなたには、私みたいな思いは味わって欲しくないな」
「………」
「私の家族は、私が方角師だと気付いたとたん私を殺そうとしたの。
タオがいなかったら、私、立ち直れなかった。
コルちゃんは、そんな経験する必要ないんじゃないかな」
「…じゃあ……。タオさんも……?」
「うん。私よりも深く傷付いてた。
けれど、守ってくれたよ。
愛してくれた」
そう。共に暮らした数年間、彼の愛情を感じない日はなかった。
例え笑顔は失われても、自分を気遣い、いつも側にいてくれた。
幼い手足で必死に寝床を探し、食べ物や衣服を与えてくれた。
だからこそ、自分もまた、彼を守ってやりたいという気持ちで側を離れずに今日に至る。
「そうだね。誰かを深く愛せる人に、悪い人はいないよね」
やって来たのは、あゆむだった。
「あゆむ…」
「あゆむさん…」
「だからこそ、はじめ信用されてなくても思ってた。
彼は、立ち直れるってね」
「…うん!あゆむやマオのおかげだよ!」
チェンは、あゆむに嬉しそうな笑顔を見せた。
「そんな、僕は何もしてないよ」
あゆむも、謙遜するように笑う。
「なんだか思い出すなぁ…。2代目の皆が出会った時のこと。
あの時ほど、人生変わるんじゃないかって思ったことないよ僕」
「あはは、私も私も!
皆、そんな感じだったよね?」
「‥2代目の皆さんって、どんな風に出会ったんですか?
わたし、聞きたいです」
コルちゃんが、控えめな笑顔で訊ねる。
「いいよ、ちょうど思い出話したいし話そっか」
「そうだね!」

1000年前、倭区域から1人の少年が旅立った。
あゆむは、ウォークマスターとして覚醒した事を伝来ハカセから告げられたばかりであった。
それまで生活していた町に別れを告げ、旅に出る。
(ちょうど良かった……。つい先日まで戦争中だったけれど、こないだ終戦したし。
旅しやすくなったのかも。
確か……、他の仲間を探してハカセのもとまで連れて行けばいいんだっけ?
とりあえずまずは、他の区域に……)
心の中で淡々と計画を立て、あゆむは己の環境が真新しくなる事に緊張している事に気付いた。
亡き両親に代わり野菜や果物を育て生活していた身から一変、まさか駆け出しながら世界の守護者となろうとは。
あゆむは、胸を踊らせた。
「ええと、地図は……」
森に入り、あゆむは地図を探そうとリュックを降ろす。
すると、ガサッと物音がし、1人の少女が現れた。
おずおずと遠慮がちに近付いてくる。
「……?」
「…あの。どうして、こんな区域の外れにいるの?
私……、迷子だったら、案内してあげようか?」
見た目美花区域の格好をしているが、自分の先程の独り言で考慮したのだろう、少女は控えめな倭区域の言語で問い掛けてくる。
それに対し、あゆむが返事をしようとした時だった。
『チェン!!あんまり人間なんかに構うな!!
また痛い目にあっても知らねーぞ!?』
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