第14章 いつの日か、皆

「ルシファーと戦った時、サタンの過去を聞いたんや。
サタンが何故、戦うかを……」
サタンが地獄に堕ちるに至った経緯。
そして、人類やマナの者を憎む理由。
彼らの生きる真意。
その全てを、エディは話した。
「…知らなかった……。悪魔は、そこまであたし達に憎しみを……」
「わたくしも、知りませんでしたわ……。
そんな事があったなんて……」
「わたしもです…」
「僕も………。
そんな事、聞いた事もありませんでした……」
みほ、イルカ、コルちゃん、ミンウが呟いた。
「そうか……。3代目の皆は、知らんかったんか…。
俺も、ヘルデウスから聞いた時は、びっくりしたし」
「あの飄々としたルシファーがあないに取り乱すくらいなんやさかい、悪魔は相当本気やと思う……。
わいらを殺す為に、生きてるみたいなもんなんやから…。
そのぶん、わいらも本気でかからなあかんよな」
「当然ですわ。その悪魔も、わたくし達にとって赦しがたい敵なのですから」
イルカが毅然とした目で言う。
それは、何物にも揺らぐことのない意志が秘められた目。
「そうだ。一矢報いてやんなきゃ、腹の虫が治まらねぇ」
タオも、同様の目をしていた。
「奴等がオレ達を殺す気なら、なんとしても生きて生きて生き抜いてやる。
これまで数え切れないほどたくさんを諦めたが、これだけは諦められねぇ。
皆だってそうだろ?」
すると、全員が頷きタオに賛同を示した。
「…さすが」
ニッと口元を吊り上げ、チョルくんは竜太郎の背に飛び乗る。
「それじゃあな!地獄のメンツが心配するけん、女神様とエステレラに挨拶ばしたら帰るし!」
「心配…?悪魔が…?」
「ヘルデウスと四天王だけならな。
あいつら、マジでバカじゃなかとーち思わん?」
チェンが不可思議だという顔をしたので、チョルくんは敢えて明るい調子で答えた。
「姫様、さようなら!
負けたりせんと、最後まで生き抜いてつかあさいね!」
「ええ、もちろんよ。チョルくんもね」
竜太郎は、チョルくんを乗せて聖域へと去りゆく。
やがて竜太郎が見えなくなると、イルカは名残惜しそうなため息をついた。
「…また、会えるのである」
「ええ……」

「本当に驚いたよ…!まさか、チョルくんが来てくれるだなんて」
聖域。
三人は、再会を喜んだ。
「神殿にいたの視てはいたけど、やっぱり嬉しい!」
『本当に…。お顔が見れて何よりです。
大きくなりましたね』
「えへへ……」
チョルくんは、はにかみ笑いを浮かべた。
「ヘルデウスが嘆いとったとよ~?
女神様が天上界に結界なんか張るけん、天上界に攻め入れられんーっち」
『ウフフ……。私とて、ちゃあんと考えているんですよ?』
「ヘルデウスねえ‥‥。チョルくん、彼と毎日暮らしているけど怖くなかった?
人間にとって悪魔王って、すごい恐怖だと思う…」
「全然!」
不安そうに訊ねるエステレラに、チョルくんは笑顔で答えた。
「もう契約は切れて、俺は大して必要なくなったやろ?
それでん、殺さずにお前は好きにして良かっち言うちくれてるんだし。
怖がる要素なんてなか」
チョルくんの目は、曇りひとつなくヘルデウスを信じきった目だった。
優しさの伝わる、澄み切った目。
彼はきっと、大切に育てられたのであろう。
『そう、ね…。
あの人も、悪い人ではないの。何も悪くなかった。
ただ……』
マナの女神は、ため息をつくと自嘲気味に微笑った。
美しい顔に、陰が宿される。
『裏切者<わたし>が悪いのですから』
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