第14章 いつの日か、皆

「ちょっと、近況報告しに来たんよね。
ヘルデウスには自分の責任で自由に行動していい言われたけん、帰ったらここ来たの伝えるし」
「事後報告であるか…」
イリスェントが苦笑いを浮かべる。
「君は本当に面白い男であるな」
「そうかし?
ほら、はよ神殿行くぞちびっこども」
「なにさー、自分だってちびっこだったじゃないか!
うわえっらそ~!」
アダムは、口では怒っていても顔は笑っている。
「わははは!黙って俺についてきんしゃい!」
「…テチョルさん…」
「ん?」
「わたし、失礼な話ですが…10年前お別れする寸前まで、テチョルさんのこと、イルカさんがいないとダメな子だと思っていたんです」
…それが……、
「そんなあなたが、自らわたし達の為に地獄に行った時、気づいたんです。
人は、勇気を出せばなんだってできるんだって。
家族や友達の為なら、どんな戦いにだって挑めると」
コルちゃんは、紫水晶の瞳を伏せる。
「だから、わたしもちょっとくらい怖くなっても悲しくなっても、まだまだがんばれる。
むしろ、そんな時こそ頑張り時なんだってことを教えられました。
…最近だいぶ、励まされてるんですよ?」
コルちゃんは、言うとはにかんだ微笑みを見せる。
チョルくんも、そんな彼女に対しニッと微笑い返してみせた。
「うん、やっぱりコルちゃんはおりこうさんだし!
10年たっても変わらなか!」
「へぇー。キミも、彼女に一目置いてたんだ?」
アダムが、にやにやと笑いながら言う。
「ばーか。俺の目に狂いはなかとよ」
チョルくんも、自信満々に返した。
「コルちゃんのゆーた事は本当だし。
俺は、姫様のおらんとなんもしきらん。
姫様がおらんかったら、今の俺はなかもんね」
そう、イルカが助けてくれたからこそ、自分はこうして人間らしく明るく生きていられる。
ひとりぼっちで寒さと孤独と飢えに耐え忍んでいたあの頃は、想像もしなかった。
世界は、こんなに広いだなんて。
「よーっし!はよ行くぞブサメンども!!
誰がいちばんに神殿につくか競争だしー!!」
意気揚々にチョルくんは、竜太郎にスピードを上げさせる。
「それならっ…!よぉーし、負けないぞ~!!」
アダムも、負けじとスピードを上げて彼を追う。
「まっ待つのである!まったくもう~~っ!」
「わたし、追い付けますかしら……」
口では文句を言いながらも、二人の顔は楽しげに綻んでいる。
束の間の、小さなレースが始まった。

「とぉ~ちゃく!」
チョルくんが、身軽な動作で竜太郎の背から神殿の床に飛び下りる。
「お前はここで待っとりんしゃい。
帰りまたよろしくな」
『キュー!』
「チョルくんてば、なんて速いんだ…ボク達ギリギリでしか追い付けなかったよ~」
「チョルくんが速いんじゃない。竜太郎が速いのである」
アダムとイリスェントが悔し紛れに言い捨てた。
「乗ってたのはこのテチョル様だし。
初代学者でん頭がかたつむりペースなことあるんやね~ぷぷぷっ」
「昔よりとことんえらそうなのである…どんな教育を受けて育ったらこうなるのであろうか」
「でも憎めないのが腹立つってとこかい?」
「…ん…まぁな」
馬鹿馬鹿しくも明るい光景に、コルちゃんがクスクスと笑む。
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