第14章 いつの日か、皆

天上界へ向かう道すがら、青空の中で二人は語らった。
「お父様もお母様も、ジャパニーズ上手だったね…。
言葉が通じて本当に良かったわ」
「あはは。お父様がたまーに宮廷に出て外交的な仕事をしとるさかい、外国語は必須な家系やねん。
どの区域の方とでも喋れなかったら、どうしても恥ずかしい思いをするんよ。
せやから、お父様も厳しくされてたんやと思う…」
「そっかあ…。だからエディも…。
あたしならムリだな。全区域の言葉を覚えろなんて言われたら、頭がパンクして脳ミソ死んじゃいそう」
「後継ぎやったからね」
エディは、困ったように微笑んだ。
「でも、今では外国語を覚えてて良かった思とるで。
だって、みほや皆と話せるもん?」
(エディ……)
みほは胸が傷み、彼の頭にそっと右手を乗せ優しく撫でた。
「み、みほ…?」
エディは戸惑い、頬を染める。
「貴族ってえらいわよ。本当に、えらいって思う。
あなたも、あなたのお父様もお母様も」
人より優雅な生活を送る貴族。
誰もが羨む華やかな日常。
しかし、その目も眩むきらびやかさの裏にどれほどの苦労があるのだろうか。
家名に縛られ、周囲の目を窺い、教養を身に付け。
みほはそんな事を考えたのだ。
エディは、照れ臭そうにあはっと笑った。
「でも、やな事ばかりじゃなかったんよ?
音楽会や舞踏会は楽しいし、サロンなんかはも~っと楽しい!!」
「サロン…?なにそれしもじものあたしにはどんなもんなのか全く想像が」
「あはは…。皆で集まって、友達作っておしゃべりしたりするんよ。
勉強や習い事に疲れた時とか、お父様の目を盗んでサロンに遊びに行っとってね。これがまた楽しいて楽しいて」
楽しげにニコニコと話すエディに、みほは風景もわからぬまま「へぇー」と頷いた。
別世界の話。明らかに別世界の話だ。
だが、
「もっと聞かせてよ?そのいたずら貴族の話!」
「ひどー!それってわいの事かいな!?
―――んーとね、おもろいんはそのサロンで何曲か即興曲ひいた時のことなんやけど、そのピアノがね…」
この、いつもと違うしゃれた会話が、彼と二人きりの会話が心地好い。
そう思ったのだった。
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