第14章 いつの日か、皆

(……いけませんわ。
どうして、こういう時に限って)
イルカは、神殿で1人、揺らぐ心に翻弄されていた。
(今までだって、あの子を信じて耐えて来たじゃない。
それなのに…何を今さら不安になって?)
この10年間、チョルくんの命は“人質”という形で確保されていた。
だからこそ、離れていても悲しさこそあれ不安になることはなかったのだ。
しかし今では契約は破棄され、彼の身の安全は不確かなものとなっている。
いつ悪魔に殺されるとも限らない、地獄で唯一の非力な人間。
そんな危険な立場にありながら、けして平気なはずはないだろう。
本当は、そばにいて支えてあげたい。
昔のように、優しく抱き締めさらさらとした黒髪を撫でていたい。
何も怖い事などありはしないのだと、囁いて……。
「‥‥いいえ。怖がっているのは、わたくし自身だわ」
嗚呼、こんなにもあの少年が大切な存在となっていただなんて。
いじらしい程に自分を慕い、自分の役に立つ為に我が身をも犠牲にした弟。
(例え世界中があなたの敵だとしても、わたくしだけはあなたの味方ですわ…。
‥だから…。
どうか、わたくしをどこかで感じていて。
それ以外、何も望みはしない‥‥)
「…そう。生きてさえ、いれば……」
信じる事の難しさを、イルカはこの時から忘れはしなかった。

「気功玉(サイギョクハ)!」
「弾け、闇を纏いし暗黒の盾“ダークリッドグランゼ”!」
連続して放たれる3つの魔力の玉を、ルシファーは魔力による盾を発生させ相殺させる。
「…へえ。方角師って、そんなにポンポン魔法が使えたっけ?」
「イルカの見よう見まねだ。
ミンウが1度見ただけで使えたのだから、私にだって……!
それに、魔力もコントロールできないで、サタンに勝とうなどと思っていない!」
「それは、ご立派だね」
ルシファーは、両手を前に掲げ、静かに召喚の呪文を唱える。
「――…“我は求め、訴えたり”」
召喚された大きな死神を思わせる鎌は、ルシファーの両手に収まった。
「君って結構優秀だったんだね。
先祖の教育が良いのか、この10年の月日の賜物か……ますます、首が欲しくなって来た」
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