第13章 ただ、生きているだけで

しかし、魔法による衝撃は来る気配がない。
恐る恐る前に向き直ると、そこには魔力の槍を必死に両手で受け止める息子の姿が。
「……!」
「エディ…オニール……!?」
ジャンヌは、思わずその名を口にする。
「…ッ……、く……!」
魔力を纏いながらではあるものの、闇のチカラで創られた槍を直に鷲掴み防いでいる為、伝わるダメージは和らげ切れない。
「だあぁっ!!」
痛みをこらえ、エディはそのまま闇の槍をルシファーに向かい投げ飛ばす。
ルシファーは、それを片手から闇の魔力を発すると、その中に飲み込ませ存在を消した。
「お父さ―――‥」
エディは両親のもとに駆け寄り、父を呼ぼうとする。
しかし、自分は縁を切られた身である事実をハッと思いだし、冷静に言い直した。
「――‥ムッシュー、マダム。お怪我は?」
母語で問えば、両親は首を僅かに横に振り、答えてくれた。
それを見ると、エディは安堵から柔らかな表情を浮かべる。
「…良かった…。嗚呼……。良かった…」
「…なぜだ…。
なぜ、私達を……。
恨まれても良い、私達を…」
「良いんです。生きていて下さってさえいれば…。
それだけで、私は…。まだ…。
美しい物を美しいと感じ、美味しい物を美味しいと感じられる。
嬉しい時に、ちゃんと笑える…。
心を…持っていられる……」
息子の目は、ひどく切なそうではあるが優しい光も秘めていた。
「…やはり、来ると思った」
ルシファーの呟きを聞き、エディはカアッと胸に怒りがこみ上げる。
「――何故、関係のない人間を巻き込むんだ!!
狙うなら、最初から正々堂々と私だけを狙えばいいだろう!!」
エディは母語のまま、振り向きざまに叫んだ。
ルシファーは、表情ひとつ変えず答える。
「関係ない?もともと私達が争う元種を蒔いたのは、人間なんだ。
狙って当然だろう」
「お二人が、貴方に何かしたか?!!
危害を加えたか!?」
「加えているさ。
価値観でね」
ルシファーは、静かに言い放つ。
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