第13章 ただ、生きているだけで

「仲間として、賛成できない!
ダメと言われてもあたしは――…」
前へ進み出ようとした刹那、みほは気が付いた。
己の体が、その場に固められたように微々たりとも動かない事に。
これは、魔力で縫い付けられているに違いない。
みほは、己を真っ直ぐに見据えるエディを戸惑いの目で見る。
優しい彼がこんな事をするだなど、信じられない。
「…エディ…」
「ごめん…みほ…。
例え、これがわがままで危険な事だとしてもわいは、お父様とお母様だけは自らの手だけでお守りしたいんよ」
「……」
「後でいくらでも、説教聞くさかい」
「あっ‥‥!」
シュン!!
エディの姿が消えると同時に、みほにかけられた魔力が解けた。
その反動で、みほはその場にヨロッと膝をついてしまう。
「…あいつ…。なに考えてんのよ。
悪魔が、どんだけ恐ろしいか知っているくせに…」
みほの脳裏に、泣きそうなまでに酷く切ない表情を浮かべたエディの顔がよみがえる。
まるで、帰る家のない子供のような普段よりも幼い彼の顔が。
「いつになったら、気付くのよ‥‥
あんたを大事に想ってるのは…ここにいるのに…。
探さなくても……いるのに…」
みほの声は、やがて涙に震え小さくなっていった。

「…ファル、居ねちゃ」
「?ファルがどうかしたの?
確かにいないけどさ」
竜太郎のケガの手当てをしながら、アスデモスはポツリと呟いたベルフェーゴルに訊く。
「仕事終わったから、一緒に釣り行こうと思ったのに。
今度行こって、約束したんすよ。…だから、今いるかと思って」
ベルフェーゴルは、表情こそ変わらないがガッカリしていて寂しそうである。
(まぁ。かわいそうに。
ていうか相変わず仲良しなのねぇ、あのナルシストとこの人見知りは…)
「やーん、フェルかわいそ~‥。
後で、あたいのおやつ分けてあげるね」
ベルゼバブは、よしよしと彼の頭を背伸びして撫でた。
「やっぱファルも忙しいんだよ。あたいで良かったら、一緒に行こうか?」
「うん…。じゃあ、城の近くの湖さ行ご」
「フェルもベルベルも、魚釣りに行くのなら、地上のキレイな湖のほうがいいと思うんだけど」
「嫌っす。チョル以外の人間の顔なんか見たくねえっす」
「戦争中だもん」
「よねぇー…」
アスデモスは浅くため息をついた。
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