第13章 ただ、生きているだけで

その翌日。
ルシファーは、ひとり、長い廊下を歩いている。
「…ああいうのが、後々大きなウェイトを占めると厄介だな」
――今のうちに、始末しておくか。
「…アイツば殺す気と?」
背後からチョルくんに声をかけられ、ルシファーは振り返る。
「…やるなら、全力で戦え」
チョルくんは確固たる意志を秘めた眼でルシファーに言い放つ。
「どっちが勝とうが、俺は黙って受け入れちゃる。
生きても、死んでもな」
「…それは、ありがたいね」
それは決して皮肉ではなく、ルシファーの心からの言葉だった。
「お土産は美少年の首だ。
じゃあね、皆にはそれを持ってくるまでは内密という名のサプライズに」
台詞に似つかわしくない無気味なほど明るい声音でルシファーは、地上に姿を消し去る。
「……グロいんだよ。パァーボ」
チョルくんは傷む胸から目を背けるように、ひどくシニカルな調子で呟いた。

アムール区域の一角にある、ド・ラフォレ・ダンジェラード家の屋敷。
その広大な自然あふれる庭では、二人の貴夫婦がゆったりとした時間を過ごしていた。
美しい貴婦人――ジャンヌは、紅茶を一口飲み微笑む。
「まあ、美味しい。さすが、私の選んだ茶葉ですわ」
「お前は、音楽と紅茶さえあれば生きていける輩だからな…」
同じ簡易テーブルにつき微笑む彼女に、夫――レミはいやみを交えからかう。
「そうですわ!ミルフィーユも持って来させましょう。
紅茶には、やはりケーキがなくては」
「ミルフィーユはやめなさい。厄介な事を思い出す」
「それは、愛息子とのお別れですかしら?
お気持ちはようくわかりましてよ」
途端に眉間に皺を寄せたレミに、ジャンヌは穏やかに言う。
「まさか、あの子がマナ一族だなんてね…。
そうでなくても、もしかしたら出て行かれたかもしれませんけれど。
貴方、エディオニールに厳しすぎましたもの…ウフフ」
「私はだな、貴族の長男として必要な……。
まあ、なんだ。全てエディオニールの為を思ってやったまでの事だ!
誕生日も、毎年きちんと祝ってやっていたし…。何を寂しい思いをする事があるのだ!!」
「そうですわね。
お誕生日だけは、あの子、幸せそうな子どもらしいお顔してたわ」
しどろもどろに弁解するレミの姿が可愛らしく思い、ジャンヌはクスクスと微笑う。
8/15ページ
スキ