第12章 終わりなき世界で…

「俺のような、身分のない平侍の事も見てて下さった……。上様は、最高のお方だ!!
絶対に手柄を立てて、上様のお役に立ってみせるぞ!!」
「ええ、ホトならできます。本当に、良うございましたね」
「ああ!!では、またな!!」
「そういえば、馬は‥どちらに?」
「馬などまどろっこしい!走って来たぜ走って!」
「まあ‥‥」
そのまま案の定走って帰ってゆくホトの後ろ姿を見つめながら、マナはクスクスと笑む。
しかし、遠くから不快なひそひそ話が聞こえ、笑みは止まるのだった。
「それにしても、野蛮な‥‥。これだから、侍は…」
「貴族に相応しい殿方は、貴族にしかおりませんものを…なんと愚かしい事でしょう」
「野蛮さが移ったらどうするつもりなのかしら」
「あの若侍も、平気で人を斬り殺すのかしら…?」
「ホトを…ホトを、侮辱しないで下さいまし!」
マナは、彼女達に向かい語気を強めた。
「ホトは、文武両道の強きお方です!
努力と忠義と優しさの、本物のお侍様です!
それに……。ホトは、私よりも和歌がお上手ですわ!!
よく知りもせず、うわべのみで馬鹿にしないで!!」
珍しく怒りをあらわにしたマナに驚き声も出せない貴族の女性達を置き、マナはその場を後にした。
(武家と公家だなど、関係ない……。関係ないわ……。
私は、ホト以外お慕いする気はないのだから……)
これほどまでにマナがホトに強い思慕を抱くのには、わけがあった。
公家にありながら和歌の苦手なマナは、肩身の狭い思いをしていた。
女達からは馬鹿にされ、男達からも相手にされず、孤独感を募らせる日々。
誰も自分をわかってくれない。
親も、周囲も。
あるひとりの貴族の男性の、この言葉
“美しいが歌も詠めぬようでは、嫁の貰い手もあるまい。哀れな姫君だ”
傷付き、自信喪失していた自分を救ったのは、幼なじみの一言だった。
『では、俺が将来嫁にもらってやるよ!
例え今ムリでも、いつか貴族と武士が一緒になれる時代が訪れるぜ!
だから、今がつらくとも諦めるな。俺も身分に負けず頑張ってみせるから…』
5/15ページ
スキ