第11章 悲壮なる開戦

「テチョルなら、大丈夫じゃ。
あやつは、自分が犠牲者だなどと思っておらぬじゃろうし‥‥そなたに刃を向けるような真似とてするような男ではない」
「まあ‥‥。どうして、おわかりになりましたの?わたくしが、あの子の事を考えている事……。
顔に書いてあったのかしら…」
イルカは大きな目をぱちくりとさせて驚く。
ヒミコはハッとした後、内心あせりながら取り繕う。
「ま、まあ。なんじゃな……。
そなたがあやつの心配をする事くらい、10年も共に暮らせばわかる事じゃ」
「ウフフ……。わたくしったら、親バカならぬ姉バカですわね。
本当、困っちゃう」
クスクスと微笑むイルカに微笑み返しながら、ヒミコは心の中で胸を撫で下ろす。
(いかん、いかん…。この能力だけは、バレてはならぬのだと言うに…。
……もう、うっかり口に出すものではないのう……)
わざわざ隠している思いや過去を自分が覗き見ていると知ったら、きっと仲間達は敬遠するだろう。
長年喜びも悲しみも共にしてきた仲間だけに、嫌われたくないという思いが強く打ち明けられないのだ。
エステレラと女神、自分の全てを知るこの二人を除いて。
「…わたくし……。こんな気がしますの。
世界は、マナの者は、悪魔は、人間は…今までとは確実に何かが変わる。
これからわたくし達が臨むのは、そういう戦い。
大事な何かがかかった、ひとりひとりの戦いなのだと……」
「……ああ。その通りじゃ」
ヒミコは、スッと静かにイルカの一歩前に立つ。
凛とした、ただずまいで。
「今までの戦いとは、違う……この戦争で、わらわ達は何かを失い、何かを手に入れるのじゃ」

一方、地獄の城では、宮廷闘技場にたくさんの武装した悪魔が集まっていた。
その中心には、漆黒の槍を携えたベルゼバブが宙に存在する。
その顔は覇気に満ちており、普段の陽気さは見えない。
彼女の隣には、火竜に乗り、長く細い足を組み武装した男達を眼下にするアスデモスが。
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