第11章 悲壮なる開戦

「仕事……。行かなきゃダメっすか?
面倒くさい…」
「行かなきゃダメなの。また減給されてしまうよ?」
「あのくたびれきったヒゲオヤジ…」
恨めしそうにボソッと悪態をつくベルフェーゴルに、ルシファーは苦笑いを浮かべる。
「まあくたびれきったヒゲオヤジなのは否定しないけど。
ほら行くよー?」
「む~‥っ」

ヘルデウスは、崖の上に立っていた。
黒い空を映す漆黒の瞳からは、感情は窺う事すらかなわない。
「――ヘルデウス!!」
「…おお。君か」
背後から声をかけられ振り向けば、チョルくんが焦ったような表情で立っていた。
「…もう。大丈夫なん?」
「………」
「お前が、何を抱えているかは知らんし……なして苦しんどったのかも知らん。
ばってん…。思い詰めるのだけはようなか」
「…参ったな…」
ヘルデウスは、ふっと哀しさと嬉しさが同居したような微笑みを浮かべる。
「こんなに心配してもらっては、言い出しづらい」
「…なんね?驚かないけん、はよ言いんしゃいよ」
「…我々、悪魔は…」
マナの者に、近々宣戦布告する。
「…それ、って…」
チョルくんは、一瞬目の前が真っ暗になる感覚を覚えた。
動悸が起こり、鼓動が激しい。
「私は、悪魔が幸せに生きれる世界を創らねばならん…いや、創るのだ。
その為には、多少の戦はやむを得ない…。いずれ、起こりうる事だったのだ」
「そっ‥か…」
「……。人間にしては、物分かりがいいな。
もっと、反対するかと思ったが」
「だって……!地獄と天上界は、昔からいざこざがあったとやろ?
悪魔は、何か辛い思いばして来たとやろ?!
…俺みたいなただの人間に、止めていいはずがない………」
「…君は、ただの人間ではない。何かが出来る人間だ」
ヘルデウスは、俯くチョルくんの肩に手を置く。
「再び選ばせよう。
君が天上界側に付きたいと望むならば、今すぐ解放する事も出来る。
しかしそれは、10年前の契約を破棄するにあたり、地上を危険にさらすというリスクも背負おう。
…逆に、このままでも良いならば地上は安泰。君には我々悪魔側に付いてもらう事になるが……。
どうする…?」
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