第11章 悲壮なる開戦

「ずいぶん私達の長(おさ)を気にかけてくれるんだね。
普通、人間なら悪魔なんてイヤじゃないのかい?」
「ましてや、人質ならの‥‥」
「‥。今まで言っとらんかったけど。俺、お前らが好きなんよ」
その言葉に、ルシファーとベルフェーゴルは瞬きも忘れた。
「服や靴が小さくなったら地上の店に連れて行ってくれ……、寂しくなったら笑顔でかまってくれる…。
そんなお節介なお前ら四天王やヘルデウスが、好きやった。
他のたいていのサタンは冷たい分、余計に‥‥‥」
チョルくんの瞳から溢れる涙が、一筋頬を伝う。
「…チョル……」
「…嫌なわけなかろう。
頼まれても、嫌になってやらん」
そのまま部屋を去るチョルくんの後ろ姿を見つめ、ルシファーは呟いた。
「人間は、支配すべき存在‥か…」
「…この10年間、あいつが可愛いって思ってたおいら達は、悪魔の道に外れてっかの‥?」
ベルフェーゴルは、肩を震わせ床を睨み付けた。
「子どもを、暗がりの中でただ生かしておくなんて…人間相手とはいえ、ちょっとムリっすよ」
「外道行為だよね。それって。
でも、悪魔なら普通そうするものだったのかなあ…」
ルシファーは、フゥと溜め息をついた。
「まあ子どもを人質にとっている時点で、“いい悪魔”にはなれないだろうがね」
「悪魔に、いいも悪いもあるんすか?」
「さあ……。でも、せめて心までは汚れたくないと思う。
君だってそうだろう?」
「そう……、っすね。
実際、ヘルデウス様の命令以外の悪い事は…。したくないし」
「あの方の命(めい)ならば、私達は何だって出来る。
――例え、子どもを拐う事だって…」
そこまで言って、ルシファーは次の言葉を飲み込む。
10年前のあの日が、思い出されてしまうから。
「やめよう、こんな話。
仕事に戻らなくては」
静かにドアを開け、ルシファーはベルフェーゴルに少し微笑みかけた。
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