第10章 統べる者の想い、仕える者の葛藤

『…そう…。
ありがとう。私の精霊達もエステレラも、きっと喜ぶわ』
“……ふん。お前が私に礼を言うだなど、気味が悪い。
私はただ、自分の仕事をしたまでだ”
ヘルデウスの声は、照れているのかどこかもどかしげだ。
『かつては、愛し合った仲でしょう?
お礼ぐらい言わなくては。
それより、もっと大事な他のお仕事や…お当番。ちゃんとやってます?
どうでも良い事柄ですけれど』
――“えっ、ええいっ!!余計なお世話だ!!
第一、王たる私が食事や洗濯や掃除の当番をこなさねばならぬコト自体おかしいのだ!!”
『そうかしら?働き者の王は、民から慕われそうですよ』
――“~~~っ‥‥。
もう良い、茶化しおって!
覚えておけ、女神よ!地上には手出しせんが、天上界に手出しせんとまでは限らんのだからな!”
そこまで捲し立てられたところで、ヘルデウスからのテレパシーは途絶えてしまう。
マナの女神は、静かにため息をついた。
『…私にお礼を言われ、照れていた。
私達は。世界は……』
あの頃には戻れないの?
『優しかった……あの時代には‥‥』

「…ヘルデウス?」
青い顔で頭を抱え床に膝をついているヘルデウスに気付き、チョルくんはそっと歩み寄る。
「どげんしたと?具合悪かと?
四天王呼ぶと?」
「…だ……」
「えっ……?」
「なぜ私に優しい声をかけるのだ!!
私達はもう、あの時の私達ではないというのに!!
あの決断を境に求めてはならぬ関係になったのだぞ!!?
判断を下したのは君だろう?!!」
いつも穏やかで落ち着いているヘルデウスが、髪を掻きむしり半狂乱で取り乱している。
理由もわからず、チョルくんはなすすべもなく立ち尽くしていた。
「マナの女神…いや……エイレンテューナ………!!」
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