第10章 統べる者の想い、仕える者の葛藤

洗濯物を取りに向かいながら、チョルくんは四天王のこれまでに言った言葉を思い返していた。
――――『昔は、ヘルデウス様とマナの女神も仲良しだったんだよ。
でも、人間のせいで仲違いしちゃった』
――――『もっと掘り下げて言えば、人間の持つ価値観のせいかしら。
神や精霊は正義。悪魔は悪、みたいなね』
――――『マナの者は、サタンの敵。
人間は、支配すべき存在。
これが今っす』
――――『これは変える事の出来ない事実。
君の絶対の人は、私達の絶対の敵なのだよ』
――――『私達は、マナの者とは違うよ。
私達は、彼らのような甘い者とは違う』
――――『君も、大変だよねえ。
あんな化け物達と暮らしてて、浮かなかったかい?』
――――『人間なんて自己チューなヤツばっかだと思ってたけど、あんたは違うと思っといてあげるわ』
(‥地獄と天上界は、一体何があったとやろう。
あいつら悪魔は、一体どげな思いば味わって来たとやろう)
それと同時に、恩人の――マナの者達の顔も思い浮かぶ。
(…変な気持ちだし。
…俺は……)
「…俺は、どげんしたかとやろ?」
誰にともなく呟いた声は、広い城の静けさに呑まれて消えた。

やがて夜になり、皆寝静まった頃。
イリスェントは、眠りが浅かったのかふと目が覚めた。
部屋と隣接した外を見れば、当然まだ外は暗い。
(どうしよう…とりあえず、再び眠気が訪れるまで神殿内を散歩でもしようかな)
そっとベッドから降りようとした時、隣で寝ているイルカの寝言らしき言葉が聞こえた。
「‥チョル、くん‥‥。
わたくしが‥あなたの…ヌナよ‥‥‥。
もう……独りじゃ…ない…わ…」
(…………)
イリスェントは、強く思った。
身分の違う彼女とチョルくんは、どういう風にして出会ったのだろう。
一体どれだけの時間をかけて、今の関係を築いたのだろうか。
あの別れは互いに死に値する苦しみではなかったのか、と……。
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