第1章 冒険の始まり。少女は朝日を浴びて
――それは、彼女が16歳になる誕生日のことであった。
まだ早朝の朝日と爽やかな風を浴びながら、少女は気持ち良さそうに伸びをした。
「うーんっ!イーイ朝だわ!この私の旅立ちにピッタリッ!」
「まあまあ。エレーヌったら。お城に行くにはまだ早いでしょう?王様だって朝の支度や朝食があるわよ」
少女――エレーヌによく似た女性は、くすりと微笑ましげに目を細める。
エレーヌはパアッと晴れやかな明るい笑顔でそれに応えた。
「だってママ!今日は私が王様に旅立ちの許しをもらいに会う約束の日なのよ?!もー昨日の夜は寝付けなくて寝付けなくて!こんなに早起きしちゃったわ!!」
「はいはい、あなたも朝食がまだでしょう?パンと温かいスープを用意してあるからお食べなさい」
「はーい。お城に行くのはそれからでいっか!」
言うなり、ピューッと家の中に戻るエレーヌ。
彼女は食べることが大好きなのだ。
そんな娘の後ろ姿を、母はくすくすと笑いながら眺め、自分も家の中に入った。
それから数時間が経ち、午前10時になる頃、エレーヌはアリアハン国王と面会した。
国王とは、彼の娘と幼なじみの親友であるため面会など改まって今さらという感じもするエレーヌだが、何せ今日は旅立ちの許しを得る日。
親しき仲にも礼儀あり、だ。
「よくぞ来た!勇敢なるオルテガの息子……いや、娘じゃったか…」
(なぜ間違える!ちっちゃい時から私を知っているくせに!そんなに私は男っぽいか!ひどいわ!!!)
「し、しかし、男にまさるとも劣らぬその精悍さ。エレーヌはさすがオルテガの子供じゃな」
エレーヌの殺気がよほど凄かったのか、国王は少々うろたえつつ訂正しフォローした。
しかしエレーヌはまだ腑に落ちない顔をしているようだ。
国王はごまかすように咳払いをすると、話を続けた。
「すでに母から聞いておろう。
そなたの父オルテガは、戦いの末火山に落ちて亡くなってしまった」
「……わかっているわ。忘れるもんですか」
母は時折、人目を忍んでもう会えぬ父を想い涙していたのだから。
エレーヌはズキリと切なく痛む胸に耐えて、若干表情を曇らせる。
「うむ……しかし、その父の後をつぎ旅に出たいというそなたの願い、しかと聞き届けたぞ!
敵は魔王バラモスじゃ!
世界のほとんどの人々は、未だバラモスの名前すら知らぬ。
だが、このままではやがて世界は魔王バラモスの手に……。それだけは何としても食い止めねばならぬ!
エレーヌよ、魔王バラモスを倒して参れ!
しかし、ひとりではそなたの父オルテガの不運を再び辿るやもしれぬ。町の酒場で仲間を見つけるが良かろう」
「了解です!!私に任せて!必ず魔王をけちょんけちょんに倒して帰るわね!だって私、勇者だもの!」
ビシッと敬礼の仕草をしながら笑顔で答えるエレーヌ。
そこには、一切の気負いも感じられず、軽口を叩いているようでその中に頼もしさに溢れているようにも見える。
国王もまた、そんな彼女に笑顔を誘われた。
「うむ!楽しみにしておるぞよ。――では、また会おう!エレーヌよ!」
国王の言ったとおりに仲間を求めルイーダの酒場に足を運ぶと、そこにはいろいろな職業の冒険者がひしめいていた。
エレーヌはドキドキと胸を弾ませる。
(スゴイ!スゴイわ…!!ここにいる人達、みんな冒険者なんだ!どーしよう、どうやって声をかけたらいいんだろう?みんな強そうだなぁ~っ…)
いかにもビギナー勇者ですとわかるくらいにキョロキョロ見回してるエレーヌを見て、揶揄するようにくすくす笑う遊び人の女性、微笑ましそうに見るお爺さん魔法使いやおじさん僧侶。
様々な人々がいたがエレーヌは気にも留めていない。
そうしている時だった。
「…ちゃん…。エレーヌちゃん」
「ん?」
可愛らしい声がかかり、そっちのほうを振り向けばひときわ小柄なピンクのボブヘアの女の子が。
エレーヌは彼女には見覚えがあった。
「あーっ!あなた…!お城で魔導書を書く仕事してる学者さんだ!!カノニーちゃん…だよね?こんなところでどうしたの?」
「ええ、こんにちは。わたし、姫様に…あなたの大の親友に聞いたの。あなたが今日旅立つって。それで仲間も探すかもと…思って。わたしも、良かったら加えて欲しいな……って。これでも魔法使い、だから…」
そう言って女の子――カノニーは控えめに微笑んだ。
「もちろんいいよ!!うわーっ頼もしいわ!!よろしく!!いっしょに冒険に出よ!」
「良かった……言ってみるものだわ。こちらこそよろしくね、勇者ちゃん」
「おいおい、オメー勇者ちゃんだってえのか?ん?」
そこに豪快な声がかかり、ふたりはそちらを無理向く。
声をかけたと思わしき少女は、ひとり大ジョッキでビールを酒樽を何個もカラッポにして煽っていた。
「オモシロソーじゃねえか、おれも連れてけよ。修道院での暮らしにゃ飽き飽きしてたところなんだ。てやんでぇ。ガッハッハ!」
そう言って少女は豪快に笑い、残りのビールをぐいっと飲み干した。
エレーヌもカノニーも、さすがに彼女の言動に面食らいぽかんとしている。
「ええと、修道院で暮らしてた…ってことは。僧侶さん?よね?今どきの僧侶の人は、飲酒していいんだ……?」
「ここ、酒場ね…。…わ、わたしは。ジュースだったけど」
エレーヌ、カノニーが恐る恐る言った。
すると、僧侶らしき少女はケラケラと笑う。
「あっはっは!よろしいのよ!よろしくてよ!神サンや神父のやつの目ばっか気にしてちゃあ、息が詰まるってもんですわ〜!オッホホホホホ!
ああ、これは気にしないで下さいませね。たまぁにご趣味でお嬢様にもなりたくなるだけですので~。
よろしくお願いしますわぁ、おふたがた!カイナと申しますわ。夏の稲と書いてかいな、カイナですの〜!」
「う、うん。よろしく、カイナ。私、エレーヌよ(か、変わったテンションの子だな~?)」
「わたしはカノニー(山賊のお頭のようなのか、お嬢様なのか、不思議な子だわ……)」
まだ若干戸惑いつつも、それぞれふたりもカイナの後に名乗り、エレーヌはカイナと握手を交わした。
その次の瞬間だった。
ドォンッ!!ドォンッ!!という轟音が立て続けに遠くの席から聞こえたのは。
「な、なんだ?!」
エレーヌは思わずその方向を振り向く。
するとそこにいたのは、利き腕を痛そうにおさえる屈強な男達と、ムキムキの大の男を腕相撲で轟音を起こしながら倒しまくっているカノニー達よりひときわ小さな女の子だった。
まだ幼く、4歳程度にしか見えない。
まさか、この轟音は彼女が?
「つぎ〜!おじちゃんたち、もっとあそんで!」
キャッキャと喜ぶ彼女に、男達は「もう勘弁してくれぇ、お嬢ちゃ〜ん…」「ま、また遊ぼうなぁ…」「またなー!」と一斉に酒場から走り去り退室してしまった。
みんな、腕がゾウの足のように腫れていた。骨折でもしているか、はたまたその他の大怪我か。
なんにしろ大ダメージであろう。
「つまんないな~」
「つ、強いのね。キミ……」
「みんな、てかげんしたんだよ。チャンちっちゃいから」
声をかけたエレーヌに不満そうに答えた女の子は、チャンという名前のようだ。
「手加減しててもしてなくてもよ?あのヤローどもの腕を見たか?お前それがチビっ子の強さかよ?ビビリましたわ~」
カイナはウンウン頷く。
「武闘家ちゃん?」
「そ!ぶとうかちゃん!」
質問したカノニーを、チャンはにぱっと笑って見上げた。
「かっ、可愛い……」
キュンと胸を射抜かれ、カノニーは彼女の頭を撫でる。
「おねーちゃんたちは、これからたびにいくひと?チャンもたびしてるんだよ」
「えっ、あなたひとりで…?」
エレーヌは顔が曇る。
こんな小さい子がひとりっきりで旅だなど、何か理由があるとしか思えない。
放っておけなくなり、エレーヌは口を開いた。
「それなら、せっかく出会ったんだからこれから私達とも一緒に旅してみるってのは?私は魔王を倒す旅に出るの。だって私、勇者だもの!
――それには……、あなたみたいな、強い仲間が欲しいんだ。いいかな?」
真摯なエレーヌの眼差しに、チャンも何かを感じ取ったのかしばらく考えていたが、コクリと大きく頷き「いーよ!」と親指をぐっと立ててニカッと笑顔を見せた。
「よっしゃあ!私はエレーヌ!」
エレーヌは前に手を出す。
「わたしはカノニー」
それにカノニーが、自らの手のひらを重ねる。
「おれぁカイナだ!!」
さらにそこにカイナも、手を重ね合わせる。
「チャンだよ!」
チャンも小さな手を重ね合わせた。
4人は、くすぐったそうに、そして楽しそうに笑い合い大きく声を合わせた。
「「「「冒険に出発だ!!」」」」
まだ早朝の朝日と爽やかな風を浴びながら、少女は気持ち良さそうに伸びをした。
「うーんっ!イーイ朝だわ!この私の旅立ちにピッタリッ!」
「まあまあ。エレーヌったら。お城に行くにはまだ早いでしょう?王様だって朝の支度や朝食があるわよ」
少女――エレーヌによく似た女性は、くすりと微笑ましげに目を細める。
エレーヌはパアッと晴れやかな明るい笑顔でそれに応えた。
「だってママ!今日は私が王様に旅立ちの許しをもらいに会う約束の日なのよ?!もー昨日の夜は寝付けなくて寝付けなくて!こんなに早起きしちゃったわ!!」
「はいはい、あなたも朝食がまだでしょう?パンと温かいスープを用意してあるからお食べなさい」
「はーい。お城に行くのはそれからでいっか!」
言うなり、ピューッと家の中に戻るエレーヌ。
彼女は食べることが大好きなのだ。
そんな娘の後ろ姿を、母はくすくすと笑いながら眺め、自分も家の中に入った。
それから数時間が経ち、午前10時になる頃、エレーヌはアリアハン国王と面会した。
国王とは、彼の娘と幼なじみの親友であるため面会など改まって今さらという感じもするエレーヌだが、何せ今日は旅立ちの許しを得る日。
親しき仲にも礼儀あり、だ。
「よくぞ来た!勇敢なるオルテガの息子……いや、娘じゃったか…」
(なぜ間違える!ちっちゃい時から私を知っているくせに!そんなに私は男っぽいか!ひどいわ!!!)
「し、しかし、男にまさるとも劣らぬその精悍さ。エレーヌはさすがオルテガの子供じゃな」
エレーヌの殺気がよほど凄かったのか、国王は少々うろたえつつ訂正しフォローした。
しかしエレーヌはまだ腑に落ちない顔をしているようだ。
国王はごまかすように咳払いをすると、話を続けた。
「すでに母から聞いておろう。
そなたの父オルテガは、戦いの末火山に落ちて亡くなってしまった」
「……わかっているわ。忘れるもんですか」
母は時折、人目を忍んでもう会えぬ父を想い涙していたのだから。
エレーヌはズキリと切なく痛む胸に耐えて、若干表情を曇らせる。
「うむ……しかし、その父の後をつぎ旅に出たいというそなたの願い、しかと聞き届けたぞ!
敵は魔王バラモスじゃ!
世界のほとんどの人々は、未だバラモスの名前すら知らぬ。
だが、このままではやがて世界は魔王バラモスの手に……。それだけは何としても食い止めねばならぬ!
エレーヌよ、魔王バラモスを倒して参れ!
しかし、ひとりではそなたの父オルテガの不運を再び辿るやもしれぬ。町の酒場で仲間を見つけるが良かろう」
「了解です!!私に任せて!必ず魔王をけちょんけちょんに倒して帰るわね!だって私、勇者だもの!」
ビシッと敬礼の仕草をしながら笑顔で答えるエレーヌ。
そこには、一切の気負いも感じられず、軽口を叩いているようでその中に頼もしさに溢れているようにも見える。
国王もまた、そんな彼女に笑顔を誘われた。
「うむ!楽しみにしておるぞよ。――では、また会おう!エレーヌよ!」
国王の言ったとおりに仲間を求めルイーダの酒場に足を運ぶと、そこにはいろいろな職業の冒険者がひしめいていた。
エレーヌはドキドキと胸を弾ませる。
(スゴイ!スゴイわ…!!ここにいる人達、みんな冒険者なんだ!どーしよう、どうやって声をかけたらいいんだろう?みんな強そうだなぁ~っ…)
いかにもビギナー勇者ですとわかるくらいにキョロキョロ見回してるエレーヌを見て、揶揄するようにくすくす笑う遊び人の女性、微笑ましそうに見るお爺さん魔法使いやおじさん僧侶。
様々な人々がいたがエレーヌは気にも留めていない。
そうしている時だった。
「…ちゃん…。エレーヌちゃん」
「ん?」
可愛らしい声がかかり、そっちのほうを振り向けばひときわ小柄なピンクのボブヘアの女の子が。
エレーヌは彼女には見覚えがあった。
「あーっ!あなた…!お城で魔導書を書く仕事してる学者さんだ!!カノニーちゃん…だよね?こんなところでどうしたの?」
「ええ、こんにちは。わたし、姫様に…あなたの大の親友に聞いたの。あなたが今日旅立つって。それで仲間も探すかもと…思って。わたしも、良かったら加えて欲しいな……って。これでも魔法使い、だから…」
そう言って女の子――カノニーは控えめに微笑んだ。
「もちろんいいよ!!うわーっ頼もしいわ!!よろしく!!いっしょに冒険に出よ!」
「良かった……言ってみるものだわ。こちらこそよろしくね、勇者ちゃん」
「おいおい、オメー勇者ちゃんだってえのか?ん?」
そこに豪快な声がかかり、ふたりはそちらを無理向く。
声をかけたと思わしき少女は、ひとり大ジョッキでビールを酒樽を何個もカラッポにして煽っていた。
「オモシロソーじゃねえか、おれも連れてけよ。修道院での暮らしにゃ飽き飽きしてたところなんだ。てやんでぇ。ガッハッハ!」
そう言って少女は豪快に笑い、残りのビールをぐいっと飲み干した。
エレーヌもカノニーも、さすがに彼女の言動に面食らいぽかんとしている。
「ええと、修道院で暮らしてた…ってことは。僧侶さん?よね?今どきの僧侶の人は、飲酒していいんだ……?」
「ここ、酒場ね…。…わ、わたしは。ジュースだったけど」
エレーヌ、カノニーが恐る恐る言った。
すると、僧侶らしき少女はケラケラと笑う。
「あっはっは!よろしいのよ!よろしくてよ!神サンや神父のやつの目ばっか気にしてちゃあ、息が詰まるってもんですわ〜!オッホホホホホ!
ああ、これは気にしないで下さいませね。たまぁにご趣味でお嬢様にもなりたくなるだけですので~。
よろしくお願いしますわぁ、おふたがた!カイナと申しますわ。夏の稲と書いてかいな、カイナですの〜!」
「う、うん。よろしく、カイナ。私、エレーヌよ(か、変わったテンションの子だな~?)」
「わたしはカノニー(山賊のお頭のようなのか、お嬢様なのか、不思議な子だわ……)」
まだ若干戸惑いつつも、それぞれふたりもカイナの後に名乗り、エレーヌはカイナと握手を交わした。
その次の瞬間だった。
ドォンッ!!ドォンッ!!という轟音が立て続けに遠くの席から聞こえたのは。
「な、なんだ?!」
エレーヌは思わずその方向を振り向く。
するとそこにいたのは、利き腕を痛そうにおさえる屈強な男達と、ムキムキの大の男を腕相撲で轟音を起こしながら倒しまくっているカノニー達よりひときわ小さな女の子だった。
まだ幼く、4歳程度にしか見えない。
まさか、この轟音は彼女が?
「つぎ〜!おじちゃんたち、もっとあそんで!」
キャッキャと喜ぶ彼女に、男達は「もう勘弁してくれぇ、お嬢ちゃ〜ん…」「ま、また遊ぼうなぁ…」「またなー!」と一斉に酒場から走り去り退室してしまった。
みんな、腕がゾウの足のように腫れていた。骨折でもしているか、はたまたその他の大怪我か。
なんにしろ大ダメージであろう。
「つまんないな~」
「つ、強いのね。キミ……」
「みんな、てかげんしたんだよ。チャンちっちゃいから」
声をかけたエレーヌに不満そうに答えた女の子は、チャンという名前のようだ。
「手加減しててもしてなくてもよ?あのヤローどもの腕を見たか?お前それがチビっ子の強さかよ?ビビリましたわ~」
カイナはウンウン頷く。
「武闘家ちゃん?」
「そ!ぶとうかちゃん!」
質問したカノニーを、チャンはにぱっと笑って見上げた。
「かっ、可愛い……」
キュンと胸を射抜かれ、カノニーは彼女の頭を撫でる。
「おねーちゃんたちは、これからたびにいくひと?チャンもたびしてるんだよ」
「えっ、あなたひとりで…?」
エレーヌは顔が曇る。
こんな小さい子がひとりっきりで旅だなど、何か理由があるとしか思えない。
放っておけなくなり、エレーヌは口を開いた。
「それなら、せっかく出会ったんだからこれから私達とも一緒に旅してみるってのは?私は魔王を倒す旅に出るの。だって私、勇者だもの!
――それには……、あなたみたいな、強い仲間が欲しいんだ。いいかな?」
真摯なエレーヌの眼差しに、チャンも何かを感じ取ったのかしばらく考えていたが、コクリと大きく頷き「いーよ!」と親指をぐっと立ててニカッと笑顔を見せた。
「よっしゃあ!私はエレーヌ!」
エレーヌは前に手を出す。
「わたしはカノニー」
それにカノニーが、自らの手のひらを重ねる。
「おれぁカイナだ!!」
さらにそこにカイナも、手を重ね合わせる。
「チャンだよ!」
チャンも小さな手を重ね合わせた。
4人は、くすぐったそうに、そして楽しそうに笑い合い大きく声を合わせた。
「「「「冒険に出発だ!!」」」」
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