第14章 信頼する勇気
究極魔法アルテマの封印を解くべくして、その封じられた神殿を探す旅を続ける一行。
ある夜、ウェッジは宿屋で寝付けずベランダで風に当たっていた。
(あいつらと旅をするのも、周りに人がいるのも慣れたもんだなぁ……。
…あいつらのこと、ぜんぜん信用してなかったっけ。いつからだっただろ。また誰かを信じれるようになったのは……)
そう、いつからだろうか。また大切な人ができたのは。
またひとりぼっちが怖くなったのは。
その記憶を、少年は思い返す――――…
「またかお前は」
ククロが睨みつける相手は、仲間になりたての少年――ウェッジだ。
彼もまたぎろりとククロを睨みつけ返している。
「いい加減盗みはやめろ」
ククロはあきれたように言った。
「ずっとひとりでこうしなきゃ生きていけなかったんだから仕方ないだろ。オレは悪くない」
ウェッジは鋭い目つきを崩さず、反省も微塵も感じられない態度だ。
盗みをやめろと言われても、守ってくれる大人もおらずこうすることでしか生きるすべがなかった。
現にこの旅も、ローラの財布をスッたことで罰として同行させられているのだから。
「今は私達がいるじゃないか?」
ローラが優しく言っても、ウェッジの態度は変わらない。
「いつまたひとりぼっちになるかわからないのに?人生何が起こるかわかんないのに知ったふうな事言うなよな」
「…取り付く島もないガキだ」
ククロは疲れたようにため息をついた。
ルカだけがずっと静かに、心配そうにウェッジを見ていた。
その夜。
テントを張り就寝していた一行だが、ウェッジだけ起きていることにローラはふと目を覚ました時に気がついた。
テントから出てみると、案の定ウェッジは起きて木陰に腰掛けていた。
「ウェッ君。また今夜も起きてるのかい。寝ないと…」
「なんだよウェッ君て。……周りに人がいると寝れないんだよ」
「そっか。私は逆に、トディがそばにいないと寝付けないな」
「なんだそれ。大人のくせに甘ちゃんかよ」
「ずっと2人で旅してたからね。君とルカと出会う前までは」
嘲笑するウェッジに、ローラは苦笑いで答える。
「…言っとくけど、オレは光の戦士とかじゃないからな。そういうのが欲しいなら他を当たれよ。ルカみたいな素直なやつをさ」
ウェッジは皮肉めいて笑む。
「…君も、根は素直だと思ってるよ」
「はあっ?!どこがだよ?!」
「だって、思ったことちゃんと話してくれるし。無理やり旅に同行させて、憎いはずの私達を殺せるだけの実力はあるのにそうしない。…いい子だと思う」
そう言って微笑んだローラの顔は月明かりに美しく照らされ、余計に眩しくウェッジには感じた。
ウェッジは少し泣きそうな目でぷいっとローラから顔をそむける。
「…お前らを信用なんかしねぇぞ。どうせすぐ別れるのに……信じるなんてムダだ。どうせ人なんか信用したって………」
人を信じて愛したって、すぐに別れが訪れて余計苦しいだけなのに。
そう言いたいのを堪えて、ウェッジは「さっさと寝たらどうだ。オレはどーせ寝れないんだ」とぶっきらぼうに言った。
ローラは「うん、わかった…明日ね」とテントに戻っていく。
(そうだよ。こいつらだってすぐ離れてくんだ。親しい人なんていない方がいい。そのほうが、辛くない……)
誰もいない夜闇の中、ウェッジは静かにいつの間にか濡れていた目を乱暴に拭った。
さすがに眠い。昨夜だけでなく、何日も眠れてない。
ふらふらと不調が目に見えているウェッジのことが仲間達も心配だが、眠れと言ったところで眠るわけがないことを分かっているだけにどうすることもできずにいる。
そのせいでウェッジは背後から爪を振りかざす魔物に気付いていなかった。
数秒後、ハッと後ろを向いた時にはすでに遅い。
「危ない!!」
魔物の爪は、自分をかばい前へ出たローラの身体を深く切り裂き鮮血を飛ばさせた。
「ぐうっ…」
ローラは激痛からその場に倒れてしまった。
目の前の光景に、ウェッジは動くことができずにいる。
「ファイア!!」
ククロが放った炎に包まれ、魔物は悲鳴を上げながら一目散にどこかへと逃げ出していった。
「ローラさん!――ケアル!」
地面に倒れたローラの傷を塞がんと、ルカは慌てて白魔法を唱え始めた。
ローラの体は淡い光に包まれゆく。
「…なんで……」
ウェッジの目から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ち始める。
その後、苦しそうに叫んだ。
「なんで!オレなんかかばうんだよ!!死んだらどうすんだ!!オレのせいで……!オレの……!」
お頭も、自分をかばい崖から落ちて死んでいった。
もう自分のせいで誰かが命を失くすのは嫌だ。
思い詰めたようなウェッジに、ローラは静かに微笑んだ。
「私達は、仲間だから……。君がケガをせずに済んでよかった。それに、私もトディが拾ってくれなかったらずっとひとりで、君と同じような境遇だったかもしれない…………君のように、生きるために誰かの財布を盗んだかも」
ようやく魔法が効いて傷が塞がり、ローラは上体を起こす。
「ありがとう、ルカ」
「もう痛くないですか?」
「ああ、もう平気さ」
にこっとローラは微笑む。
「それはそうと、ウェッ君お前。ローラの事を泣くほど心配してくれたのか?案外いい子なものだ。少し安心した」
ククロの言葉に、ウェッジはかぁっと赤くなる。
ウェッ君呼びに反論する余裕も残らない。
ローラも同じ呼び方をしていたし、偶然なのかひそかにこう呼ばれていたのか。
なんにしろ親しみはこめられているのだろう。
「そんなんじゃないもーんっ!!」
「いいえ。ウェッジさんはいい人です。ありがとうございます」
ルカもにこにこと感謝を伝える。
ローラも同様に笑顔だ。
そんな雰囲気に照れが限界を迎えたウェッジは、「あーもう!」と振り切ったように叫ぶと、初めて笑顔を見せた。
向日葵のような、とても少年らしい笑顔だ。
「今みたいなことにならないよう、今夜はちゃんと寝るよ!…お前らは近くにいても大丈夫な奴らっぽいし!」
「そうだ、ちゃんと寝ろ。子どもはよく寝たほうがすくすく育つものだ」
ククロはうんうんと頷く。
「僕らといるからには。しっかり飯を食って、しっかり寝てもらうからな?健やかに育ててやるから覚悟しておくんだな」
「な、なんなんだよ!父親…トディぶるなよ!もうっ!!言われなくても食って寝るよ!!」
その時自然と笑えていたことに、ウェッジは気付いていなかった。
そして、少しして気が付いた後なんだかくすぐったい気分になり、また微笑むのだった。
そうだ、それからだ。周りに人がいることが、また嬉しくなったのは。
(オレも命をかけなくちゃなんないかな。ローラがオレのために命をはってくれたように……オレも世界のために……せめて…)
「……そろそろ寝よ!寝たほうが育つ!!」
ウェッジは明るく言って伸びをしながら、ベッドへ向かった。
ある夜、ウェッジは宿屋で寝付けずベランダで風に当たっていた。
(あいつらと旅をするのも、周りに人がいるのも慣れたもんだなぁ……。
…あいつらのこと、ぜんぜん信用してなかったっけ。いつからだっただろ。また誰かを信じれるようになったのは……)
そう、いつからだろうか。また大切な人ができたのは。
またひとりぼっちが怖くなったのは。
その記憶を、少年は思い返す――――…
「またかお前は」
ククロが睨みつける相手は、仲間になりたての少年――ウェッジだ。
彼もまたぎろりとククロを睨みつけ返している。
「いい加減盗みはやめろ」
ククロはあきれたように言った。
「ずっとひとりでこうしなきゃ生きていけなかったんだから仕方ないだろ。オレは悪くない」
ウェッジは鋭い目つきを崩さず、反省も微塵も感じられない態度だ。
盗みをやめろと言われても、守ってくれる大人もおらずこうすることでしか生きるすべがなかった。
現にこの旅も、ローラの財布をスッたことで罰として同行させられているのだから。
「今は私達がいるじゃないか?」
ローラが優しく言っても、ウェッジの態度は変わらない。
「いつまたひとりぼっちになるかわからないのに?人生何が起こるかわかんないのに知ったふうな事言うなよな」
「…取り付く島もないガキだ」
ククロは疲れたようにため息をついた。
ルカだけがずっと静かに、心配そうにウェッジを見ていた。
その夜。
テントを張り就寝していた一行だが、ウェッジだけ起きていることにローラはふと目を覚ました時に気がついた。
テントから出てみると、案の定ウェッジは起きて木陰に腰掛けていた。
「ウェッ君。また今夜も起きてるのかい。寝ないと…」
「なんだよウェッ君て。……周りに人がいると寝れないんだよ」
「そっか。私は逆に、トディがそばにいないと寝付けないな」
「なんだそれ。大人のくせに甘ちゃんかよ」
「ずっと2人で旅してたからね。君とルカと出会う前までは」
嘲笑するウェッジに、ローラは苦笑いで答える。
「…言っとくけど、オレは光の戦士とかじゃないからな。そういうのが欲しいなら他を当たれよ。ルカみたいな素直なやつをさ」
ウェッジは皮肉めいて笑む。
「…君も、根は素直だと思ってるよ」
「はあっ?!どこがだよ?!」
「だって、思ったことちゃんと話してくれるし。無理やり旅に同行させて、憎いはずの私達を殺せるだけの実力はあるのにそうしない。…いい子だと思う」
そう言って微笑んだローラの顔は月明かりに美しく照らされ、余計に眩しくウェッジには感じた。
ウェッジは少し泣きそうな目でぷいっとローラから顔をそむける。
「…お前らを信用なんかしねぇぞ。どうせすぐ別れるのに……信じるなんてムダだ。どうせ人なんか信用したって………」
人を信じて愛したって、すぐに別れが訪れて余計苦しいだけなのに。
そう言いたいのを堪えて、ウェッジは「さっさと寝たらどうだ。オレはどーせ寝れないんだ」とぶっきらぼうに言った。
ローラは「うん、わかった…明日ね」とテントに戻っていく。
(そうだよ。こいつらだってすぐ離れてくんだ。親しい人なんていない方がいい。そのほうが、辛くない……)
誰もいない夜闇の中、ウェッジは静かにいつの間にか濡れていた目を乱暴に拭った。
さすがに眠い。昨夜だけでなく、何日も眠れてない。
ふらふらと不調が目に見えているウェッジのことが仲間達も心配だが、眠れと言ったところで眠るわけがないことを分かっているだけにどうすることもできずにいる。
そのせいでウェッジは背後から爪を振りかざす魔物に気付いていなかった。
数秒後、ハッと後ろを向いた時にはすでに遅い。
「危ない!!」
魔物の爪は、自分をかばい前へ出たローラの身体を深く切り裂き鮮血を飛ばさせた。
「ぐうっ…」
ローラは激痛からその場に倒れてしまった。
目の前の光景に、ウェッジは動くことができずにいる。
「ファイア!!」
ククロが放った炎に包まれ、魔物は悲鳴を上げながら一目散にどこかへと逃げ出していった。
「ローラさん!――ケアル!」
地面に倒れたローラの傷を塞がんと、ルカは慌てて白魔法を唱え始めた。
ローラの体は淡い光に包まれゆく。
「…なんで……」
ウェッジの目から、ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ち始める。
その後、苦しそうに叫んだ。
「なんで!オレなんかかばうんだよ!!死んだらどうすんだ!!オレのせいで……!オレの……!」
お頭も、自分をかばい崖から落ちて死んでいった。
もう自分のせいで誰かが命を失くすのは嫌だ。
思い詰めたようなウェッジに、ローラは静かに微笑んだ。
「私達は、仲間だから……。君がケガをせずに済んでよかった。それに、私もトディが拾ってくれなかったらずっとひとりで、君と同じような境遇だったかもしれない…………君のように、生きるために誰かの財布を盗んだかも」
ようやく魔法が効いて傷が塞がり、ローラは上体を起こす。
「ありがとう、ルカ」
「もう痛くないですか?」
「ああ、もう平気さ」
にこっとローラは微笑む。
「それはそうと、ウェッ君お前。ローラの事を泣くほど心配してくれたのか?案外いい子なものだ。少し安心した」
ククロの言葉に、ウェッジはかぁっと赤くなる。
ウェッ君呼びに反論する余裕も残らない。
ローラも同じ呼び方をしていたし、偶然なのかひそかにこう呼ばれていたのか。
なんにしろ親しみはこめられているのだろう。
「そんなんじゃないもーんっ!!」
「いいえ。ウェッジさんはいい人です。ありがとうございます」
ルカもにこにこと感謝を伝える。
ローラも同様に笑顔だ。
そんな雰囲気に照れが限界を迎えたウェッジは、「あーもう!」と振り切ったように叫ぶと、初めて笑顔を見せた。
向日葵のような、とても少年らしい笑顔だ。
「今みたいなことにならないよう、今夜はちゃんと寝るよ!…お前らは近くにいても大丈夫な奴らっぽいし!」
「そうだ、ちゃんと寝ろ。子どもはよく寝たほうがすくすく育つものだ」
ククロはうんうんと頷く。
「僕らといるからには。しっかり飯を食って、しっかり寝てもらうからな?健やかに育ててやるから覚悟しておくんだな」
「な、なんなんだよ!父親…トディぶるなよ!もうっ!!言われなくても食って寝るよ!!」
その時自然と笑えていたことに、ウェッジは気付いていなかった。
そして、少しして気が付いた後なんだかくすぐったい気分になり、また微笑むのだった。
そうだ、それからだ。周りに人がいることが、また嬉しくなったのは。
(オレも命をかけなくちゃなんないかな。ローラがオレのために命をはってくれたように……オレも世界のために……せめて…)
「……そろそろ寝よ!寝たほうが育つ!!」
ウェッジは明るく言って伸びをしながら、ベッドへ向かった。
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