第10章 とある親子の物語

他民族の兵士に斬られる、逃げ惑うミシディア族の人々。

あちこちで血まみれで倒れているミシディア族。

立ち込める血の臭いに、ローラは吐き気をもよおした。

「逃げるぞ!!」

ククロはローラの手を引きダッと一心不乱に駆け出した。

「マディは?!シルディは?!」

「今はローラの命を守るほうが先だ!約束しただろう、何があっても置いてかないと!」

それを聞いて、ローラは何も言えなくなった。

なんとか逃げ切りミシディアの村の外の森まで出たふたりは、頭が真っ白で何も考えられなかった。

突然壊された日常。

皆を襲っていた兵士はどこの兵士だろうか?

皆は大丈夫なのだろうか?

「ーーーねえ、トディ……。やっぱり、戦いに行こうよ……。」

「…………。」

「トディは黒魔道士なんでしょ?!強いんでしょ?!皆を守ろう?!シルディやマディが死んじゃったらやだ!!」

ローラは涙目で懇願した。

ククロは黙って頷いた。

「……そうだな。戻ろう。戻って、皆を助けよう。」

「うん!!」

しかし、ふたりが戻ってきた時には、村は焼け跡状態で生きているミシディア族は誰一人としていなかった。

ククロの母親とシルドレアの血まみれの遺体を発見した時、ローラは涙が止まらなかった。

涙するローラの傍ら、ククロは怖い顔をしてぎゅっと手を握りしめうつむいている。

ローラは、地面に旗が一本刺さっているのに気が付いた。

あの旗の模様には見覚えがある。

あれはーーー……、

(アルテア王国軍の旗……!!)

ローラは愕然とした。

自分の出身民族が、ククロの大切な人々や故郷、ククロの母親やシルドレアの命を奪ったのだから。

「トディ……、トディ…、ごめんなさい。」

ローラはぼろぼろと涙をこぼしながら、アルテア族全ての代表として謝罪した。

「……なぜローラが謝るんだ。」

「トディ、アルテア族を嫌いになったでしょ?僕のこと殺すなり捨てるなり好きにしていいよ。」

「…そうだな、好きにさせてもらおうか。」

ククロはローラに向けて手を伸ばした。

魔法で攻撃されるのを覚悟してローラはぎゅっと目を瞑った。

しかし、攻撃するどころかククロはローラを抱き締めたのだ。

ローラは、温かな涙をこぼした。

ククロもまた、静かに涙を流していた。

「殺せるわけがないだろう。捨てられるわけがないだろう……。ローラまで失ったら、僕はどうすればいいんだ…。もうこれ以上大切な人を失いたくない……。」

ローラは泣いた。声を上げて泣いた。

ククロも静かに涙を流しながらぎゅっと抱き締めた。

こうしてふたりは、共に旅をして放浪する事になった。
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