Vol. 1 隣り合わせの二人 ・瑠衣side1

  • 大学のサークルも正直めんどい。

  • もともと入る気もなかったから余計や。

  • ルイ

    『んー…いくら高野先輩の頼みでも、嫌なもんは嫌やな』

  • *

    『頼むよ、俺が立ち上げたサークルなんだよ』

  • ルイ

    『そんなん知らんって』

  • ルイ

    『別に潰れたかてええやん』

  • *

    『写真の真髄を、みんなと研究して切磋琢磨していきたいんだよ、俺はっ』

  • ルイ

    『どーぞ、俺以外の奴らと切磋琢磨してくれ』

  • *

    『そんなこと言わないでさあ…、頼むよ、ルイ~!』

  • ルイ

    『……、』

  • ルイ

    『…でかい図体して、そんな子犬みたいな目で見んな…』

  • なんとなく俺、

  • 昔から泣き付かれたら弱い。

  • 高野先輩は、こっちに引っ越してきてからの高校時代のサッカー部の先輩で、

  • たまたま同じ大学に進学してからも色々世話にもなってるし、縦の関係抜きで仲良くしてもらってるから、

  • その恩義もあるっていうか、まあ、そういった自分なりの理由も見つけて、

  • 【写真研究部】とやらに入ったけど。

  • ルイ

    『…ていうか、なんで、どこをどう曲がりくねって<写真研究部>なん?』

  • ルイ

    『サッカーどうしたんよ?』

  • 俺の率直な質問に、高野先輩は途端に目をキラキラさせて、

  • *

    『芸術に目覚めたんだ!』

  • …とか言い放ったから驚いた。

  • どうやら、月日の流れは人を変えることもあるらしい。

  • 確かに、コンクールとかに出展したとかいう高野先輩の写真はなかなかすごい。

  • すごいけど。

  • サッカーとは別口のその才能も素直に認めるけど。

  • *

    中森くんってイケメンだし、写真撮るよりも撮られる方だよねっ!

  • ルイ

    そんなことないでー。

  • *

    そんなことあるよ、ルイはかっこいいから被写体向きだよな。

  • ルイ

    …先輩まで一緒になって何言うてんねん。

  • *

    照れなくていいって、ルイ!

  • *

    ほんとのことなんだから!

  • ルイ

    ……、

  • ルイ

    (別に照れとらんっつーの、)

  • ルイ

    (あんたまで一緒になって言うたら、火に油注ぐみたいになるから言うとんねん)

  • *

    そうですよね、高野先輩ー!

  • *

    次の作品で、ルイくんにモデルになってもらおうかなあ。

  • ルイ

    (…ほらなー)

  • ルイ

    いや、ごめんやけど、それは堪忍して。

  • サークルにはなぜか女子が多くて、贅沢かもしれんけど、たまにしんどい。

  • ルックスやビジュアルを褒めてくれるのはありがたく思う。

  • でも、黄色い声っていうんかな…俺、昔からそういうのちょっと苦手。

  • ルイ

    (もうどうでもええから風景でも撮影して、サッサと写真の研究したらどうよ?)

  • ルイ

    (あんたら、ここに何しに来とんねん…)

  • 毎度毎度、建前の笑顔の裏でこっそり毒吐く俺って、めっちゃ嫌な奴やわ。

  • ルイ

    ……だるい。

  • 今日も、そんな感じのひとときをサークルで過ごして。

  • ちょっと自己嫌悪な自分に内心でげんなりした後、

  • 電車から降りてタラタラ歩いてたら、ちっこい背中が見えてきて。

  • ルイ

    …おっ、

  • すぐに分かった、ヒナやって。

  • やっぱ秋やな、暗くなるのも早よなって。

  • ヒナが前から電車通勤なのは知ってたけど、

  • 薄暗い夜道を一人で歩いてんのを目の当たりにしたら、これから先も一人で歩かすのが怖なった。

  • ルイ

    ……、

  • 小走りに追い付いて横に並んで顔覗き込んだら、なんかニヤけて嬉しそうな顔してて。

  • いきなり声掛けたからめっちゃ驚いてて、

  • もうそれが、とにかく可愛すぎやった。

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