Vol. 1 隣り合わせの二人 ・1

  • 片手に小さなケーキの箱を持って、駅から家路を辿る。

  • ヒナ

    今日は嬉しいことがいっぱいだったな…。

  • 昼間の出来事を思い返せば、自然と口端に笑みが浮かんだ。

  • 空には、うっすらと姿を現した三日月。

  • 暑かった夏も終わり、あと2ヶ月もすれば今年も終わる。

  • ヒナ

    (…来年になったら、)

  • ヒナ

    …また一つ年取っちゃうなあ…。

  • ルイ

    ええやん、年取ったかて。

  • ヒナ

    …、!

  • ヒナ

    (…っ、びっくりした…)

  • 少しハスキーな、それでいてよく通る声音に驚いて振り返れば、

  • 見慣れた笑顔が視界を埋めた。

  • ルイ

    おっきな独り言やなー。

  • ルイ

    隣追いつく前に聞こえたわ。

  • ヒナ

    …う、

  • 言われて、思わず手で口元を押さえる。

  • ルイ

    年取る言うても、

  • ルイ

    まだ誕生日ちゃうやろ?

  • ヒナ

    そ、そうだけど…。

  • ルイ

    おまけになによ、ニヤニヤしながら歩いとったけど?

  • ルイ

    ちょっと不気味やで、自分。

  • ヒナ

    み、見てたの!?

  • ルイ

    駅から出て、下降りるときにチラッとな。

  • ヒナ

    ヤバイ、恥ずかしい…、

  • ヒナ

    気を付けないと。

  • ルイ

    まあ、俺しか見てへんから大丈夫や。

  • 声の主はどこか満足げに、小さく口角を上げて微笑んだ。

  • ヒナ

    それにしても、ルイくん、

  • ヒナ

    いきなり現れるからびっくりしたよ。

  • ルイ

    ヒナ、仕事の帰りか?

  • ヒナ

    うん。

  • ヒナ

    ルイくんは?大学の帰り?

  • ルイ

    そやで。

  • ルイ

    今日はいつもより、ちょっと遅なってん。

  • 小さなあくびを漏らしながら、チラリとこちらを見遣って続ける。

  • ルイ

    …ほんま、

  • ルイ

    女の子一人で夜道とか、危なすぎるで。

  • ヒナ

    …え、女の子?

  • ルイ

    ヒナのことや。

  • ヒナ

    いや、もうそんな年頃でもないけど。

  • 思わず苦笑すれば、意外にもルイくんは真剣な眼差しで射抜いてきた。

  • ルイ

    なに言うてんの、

  • ルイ

    立派な女の子やし。

  • ヒナ

    そ、そうかな…、

  • ルイ

    ぼーっとしとったら、飢えた男に捕って喰われるで?

  • ヒナ

    私なんかに興味を示す男の人なんて、

  • ヒナ

    そんなにいないと思うけど?

  • ルイ

    そんなことないで。

  • ヒナ

    そんなことあるある。

  • 頭を振って、それこそ全否定して見せる。

  • そんな人がいたら、もうとっくに結婚してる。

  • 今は、仕事と家の往復がメインで、彼氏すらいないのに。

  • ルイ

    …全然自覚ないみたいやから言うけど、

  • ルイ

    ヒナ、可愛いし。

  • ヒナ

    …は?

  • ヒナ

    どこがっ。

  • ルイ

    え、

  • ルイ

    全部よ。

  • ヒナ

    もー、

  • ヒナ

    そんな冗談はいいから。

  • ヒナ

    (やれやれ、)

  • ヒナ

    (ルイくんの目は完全なる節穴だ)

  • 呆れた風に笑って、夜空に視線を馳せた。

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