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ヒナ
ああー…
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ヒナ
まあ…ね、ふふふふ。
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ルイ
なによ、やっぱ不気味やわ。
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ヒナ
んふふふ。
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ヒナ
少し前から通院してるワンちゃんがいるんだけど、
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ヒナ
今日、その飼い主さんにお礼をもらっちゃったんだ。
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ルイ
へえ。
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ルイ
そら良かったやん。
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精悍な瞳を丸くしたかと思うと、ルイくんは嬉しそうに微笑む。
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まるで自分のことのように喜んでくれるその笑顔を見ていると、私の心も弾んだ。
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ヒナ
飼い主さん、『いつもありがとう』って言ってくれて。
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ヒナ
『病院嫌いなこのコが、櫻木さんに会えるって分かってからは、嫌がらなくなったんです』って。
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ヒナ
そんな風に言ってもらえるだけでも嬉しいのに、
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ヒナ
なんと、ケーキまでもらっちゃったのよ。
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手にある可愛らしい小箱を掲げて、ちょっぴり胸を張った。
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ルイ
日頃の頑張りが報われたってわけやな。
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ヒナ
うん。
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ルイ
ヒナへのちょっとしたご褒美や。
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ヒナ
うんっ。
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遠慮がちに、でも、力強く頷いた。
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慢心しているわけではないけど、地道な努力を少しくらい誇示してもバチは当たらないだろう。
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動物看護師の道を選んだのは自分なのに、辛いことの方が多いように思えるこの仕事、
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心が折れそうになるときだってたくさんあった。
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慣れない新人の頃は、厳しい先輩の辛辣な言葉に、家に帰ってから号泣したことだってある。
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手を尽くしても助からなかった動物たちの死を目の当たりにしてしまうときは、
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業務に慣れはしても、そのことだけは今でも辛く悲しく、やりきれない想いでいっぱいになる。
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それらを懸命に乗り越えて、
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この仕事に誇りを持って、私なりに頑張ってきたつもりだから。
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ルイ
その犬も、嫌いな病院通いが苦になれへんくらいやから、
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ルイ
ヒナのことがめっちゃ好きなんやろな。
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ヒナ
ふふ…、ニヤける。
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私の動物看護師としての存在が、
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患者である動物や飼い主の安らぎや助けになるならこれほど嬉しいことはない。
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ルイ
…、
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不意に、ルイくんがフッと笑う。
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ルイ
ヒナは思ってることが顔に出やすいから、見てて飽きやんわ。
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ヒナ
何を考えてるか分かんない奴よりはいいでしょー。
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ルイ
そらそうや。
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ルイ
分かってると思うけど、褒め言葉やで?
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ヒナ
なんだか今日は、褒めてもらうことが多くて、くすぐったい感じだな。
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ルイ
たまにはええやん、
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ルイ
今日は、改めてモチベーション上げる日ってことで。
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ヒナ
…、
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たわいもない会話の一部として気楽にそう告げたルイくんだけど、
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なんだか、その言葉一つ一つに、暖かくて優しい労いが込められている気がした。
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