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中森瑠衣くんは、私の家の隣に住むご近所さん。
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出会った頃は、彼が高校2年生だったけど、今は大学3年生だ。
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私より8つも年下だけど、私よりもずっと背が高くて、切れ長の瞳がクールなイケメンくん。
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最初に彼を見たとき、その容姿端麗さに思わず見惚れてしまったほどだ。
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黙っていればほんの少し近寄りがたい雰囲気はあるけど、
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口を開けば飛び出す関西弁にはちょっとしたギャップ萌え。
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世の中には、天が二物も三物も与えたかのようなこんな子がいるんだなあと、
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やけに感心したのを覚えている。
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当初、空き地だったお隣の場所に新築が建ったのはおよそ4年前。
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建設中、時折工事を見守りに来ていたのは年配のご夫婦だけだったから、
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私はてっきりその夫婦だけがお隣に住むのだろうと思っていた。
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だけど。
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ルイ
『孫の<瑠衣>言います…、』
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引っ越しの挨拶回りで、夫妻がルイくんの祖父母であること、
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新築の家にはその3人で住むことを知った。
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祖父母夫妻の穏やかな笑みが並ぶ傍らで、
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浅黒く日に焼けた鼻の頭を指先で軽く掻きながらペコリと頭を下げた当時のルイくんは、
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きっとシャイで、どちらかといえば無口な男の子なんだろうなと思っていた……
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……のに。
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ルイ
『へえ、動物の看護師さんやってるんや。』
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ルイ
『動物専門やけど、人間もイケるやんな?』
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ルイ
『俺がもし風邪引いて寝込んだら、看病頼むで』
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…とか。
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ルイ
『ヒナー。自転車パンクしてた。車で学校送ってー』
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…とか。
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ルイ
『キャベツ千切りしてたら、もれなく指切ったわ。絆創膏貼ってくれへん?』
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…とか、それはもういろいろ。
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引っ越し後、1か月も経たないうちに、勝手に名前も呼び捨てにされて。
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遠慮なく紡がれる言葉には、もうずっと昔からご近所さんだったと錯覚しそうになるくらいで、
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そんなルイくんに押され気味になった。
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でも、どういうわけか、嫌だと思ったことは一度もなくて。
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ヒナ
(なんだろう…、弟みたいに可愛いから許せちゃうのかな…?)
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ルイ
なあ。
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ヒナ
…え?
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ヒナ
っと、ごめん、ちょっとぼんやりしちゃってた。
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ルイ
別にええよ。
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ルイ
…で、
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ルイ
仕事、楽しい?
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ヒナ
え?
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ヒナ
仕事?
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ルイ
ヒナ、今仕事帰りやん?
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ルイ
そやのに、さっき、ニヤニヤしとったから。
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夜空に浮かぶ月を見上げてのんびり歩を進めながら、
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思いついたようにルイくんは訊ねた。
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