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ヒナ
……、
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ヒナ
(気にするほどのことでもないのかな…?)
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視線を外したままで陽の眩しさに目尻を歪めるルイくんの横顔を見ながら、
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ヒナ
…じゃあ、ちょっと待ってね、
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ヒナ
ササっと片付けちゃうから。
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ひとまず気を取り直して、最後に残った洗車ブラシを手に持って振り返る。
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ヒナ
お母さんが今買い物に行ってて、冷蔵庫の中身があまり充実してないから、
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ヒナ
簡単なものしか作れないけど…それでもいい?
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ルイ
…えっ!?
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ヒナ
え、なに、どうかした?
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ルイ
…い、いや、なんつーか…、
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素っ頓狂な声で返事をしたルイくんを不思議に思い訝る私の問いかけに、
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ルイくんは曖昧に首を振って瞬きを繰り返す。
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ルイ
…え、手料理、やんな、それ…。
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ヒナ
まあ、そうなるかな…、簡単なものだけど。
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ルイ
ヒナが作るんやんな…?
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ヒナ
私以外に誰がいるのさ。
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ルイ
そやな、うん、そやけど…、
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ルイ
手料理、な…。
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どういうわけか、緊張した様子で声を紡いだ。
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ヒナ
…あ。
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ヒナ
もしかして、家族以外の人の手料理とか嫌だったりする?
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ヒナ
何か買ってきたり、外食したりする方がいいかな?
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ルイ
ちゃうちゃう!!
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ルイ
まさかのヒナの手料理とか、めっちゃいいやんっ!
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ヒナ
…それならよかった。
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ルイ
いいに決まっとる!
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弛緩させた頬がゆるゆると感激で満ちるようで、それを見ているとちょっと嬉しい。
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ヒナ
でも、材料もあんまりないし…、ほんとに簡単なものしか作れないよ?
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ヒナ
例えば、チキンライスとか…。
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ルイ
チキンライスて簡単なん?
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ルイ
俺、全然チキンライスでええわ、めっちゃ嬉しい!
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ヒナ
ふふ。じゃあ、それで決まりね。
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目を輝かせて頷いたルイくんに微笑み返しながら、指でOKサインを作って見せた。
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……と、そこに、
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軽快な着信メロディが鳴り響く。
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ヒナ
(……、)
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私のスマホは自室に置いたまま。
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つまり、着信音が呼び出す持ち主は私の目の前にいる、というのが最適な答えだろう。
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ヒナ
…ルイくん、
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OKサインから電話に出るよう促すジェスチャーに変えて見せると、
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ルイ
……あ。
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ルイ
俺か?
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少しばかり間延びしたように述べて、
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ポケットから取り出したスマホの画面に視線を投じたルイくんは、
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一瞬だけ眉根をひそめてから、静かに受信画面をタップした。
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