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片手に小さなケーキの箱を持って、駅から家路を辿る。
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ヒナ
今日は嬉しいことがいっぱいだったな…。
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昼間の出来事を思い返せば、自然と口端に笑みが浮かんだ。
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空には、うっすらと姿を現した三日月。
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暑かった夏も終わり、あと2ヶ月もすれば今年も終わる。
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ヒナ
(…来年になったら、)
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ヒナ
…また一つ年取っちゃうなあ…。
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ルイ
ええやん、年取ったかて。
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ヒナ
…、!
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ヒナ
(…っ、びっくりした…)
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少しハスキーな、それでいてよく通る声音に驚いて振り返れば、
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見慣れた笑顔が視界を埋めた。
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ルイ
おっきな独り言やなー。
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ルイ
隣追いつく前に聞こえたわ。
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ヒナ
…う、
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言われて、思わず手で口元を押さえる。
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ルイ
年取る言うても、
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ルイ
まだ誕生日ちゃうやろ?
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ヒナ
そ、そうだけど…。
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ルイ
おまけになによ、ニヤニヤしながら歩いとったけど?
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ルイ
ちょっと不気味やで、自分。
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ヒナ
み、見てたの!?
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ルイ
駅から出て、下降りるときにチラッとな。
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ヒナ
ヤバイ、恥ずかしい…、
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ヒナ
気を付けないと。
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ルイ
まあ、俺しか見てへんから大丈夫や。
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声の主はどこか満足げに、小さく口角を上げて微笑んだ。
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ヒナ
それにしても、ルイくん、
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ヒナ
いきなり現れるからびっくりしたよ。
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ルイ
ヒナ、仕事の帰りか?
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ヒナ
うん。
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ヒナ
ルイくんは?大学の帰り?
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ルイ
そやで。
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ルイ
今日はいつもより、ちょっと遅なってん。
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小さなあくびを漏らしながら、チラリとこちらを見遣って続ける。
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ルイ
…ほんま、
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ルイ
女の子一人で夜道とか、危なすぎるで。
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ヒナ
…え、女の子?
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ルイ
ヒナのことや。
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ヒナ
いや、もうそんな年頃でもないけど。
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思わず苦笑すれば、意外にもルイくんは真剣な眼差しで射抜いてきた。
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ルイ
なに言うてんの、
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ルイ
立派な女の子やし。
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ヒナ
そ、そうかな…、
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ルイ
ぼーっとしとったら、飢えた男に捕って喰われるで?
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ヒナ
私なんかに興味を示す男の人なんて、
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ヒナ
そんなにいないと思うけど?
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ルイ
そんなことないで。
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ヒナ
そんなことあるある。
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頭を振って、それこそ全否定して見せる。
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そんな人がいたら、もうとっくに結婚してる。
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今は、仕事と家の往復がメインで、彼氏すらいないのに。
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ルイ
…全然自覚ないみたいやから言うけど、
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ルイ
ヒナ、可愛いし。
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ヒナ
…は?
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ヒナ
どこがっ。
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ルイ
え、
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ルイ
全部よ。
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ヒナ
もー、
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ヒナ
そんな冗談はいいから。
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ヒナ
(やれやれ、)
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ヒナ
(ルイくんの目は完全なる節穴だ)
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呆れた風に笑って、夜空に視線を馳せた。
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