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すっきりとした秋晴れが、四季の天気の中で一番好きだ。
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虫の鳴き声とか紅葉とか、そういうのも秋を感じさせてくれて和むけど。
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ヒナ
……
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この雲一つない透明感のある空を見ていれば、いろんな悩みも吹き飛んでいく気がした。
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飲み会から数日後。
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土曜日の今日は、午前中の勤務を終えて、久しぶりに愛車の洗車に時間を割いていた。
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社会人になって初めて自分でマイカーローンを組み、購入した大きな買い物。
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コイン洗車で軽く済ませるのは忍びなくて、手のひらで掴むには余るくらいの大きなスポンジ片手に、いつも家のカーポートの下で車を磨く。
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ヒナ
……、
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ヒナ
…、よしっ、綺麗になったっ。
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磨き終えた車体を満足げにひと眺めし、ホースの水をかけて洗浄剤を流した。
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ヒナ
…、
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そういえば、何か思い悩むことがあるとき、
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無心で洗車に励むことが多い気がする。
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このところ、飲み会で知り合った影山さんのことをよく考えるようになっていて、
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あの日以来、彼とは何度かメールのやり取りをしているのだけど。
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仕事の話をして、労いや励ましの言葉を掛け合ったり、
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日常のたわいのない話をしたり。
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そんな中で、互いの身の上話をするときがあって、
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影山さんが、一般家庭とは少しだけかけ離れた家に生まれ育ったことを知った。
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いわゆる、実家が代々資産家。
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大きな屋敷には、家政婦さんもいるらしくて。
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弁護士というだけでもすごいなと思うのに、
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そんな家系の生まれの人だなんて、普通の家庭で育った私から見れば、格差を感じてしまうのは否めない。
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ヒナ
……
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影山さんが、私のことを気に入ってくれているのはなんとなく気付いている。
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でも、私はそれに気付いていないフリをしている。
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同年代で話も合うし、彼のことが嫌だとかではなく、むしろ好印象。
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だからこそなのか、臆病になるというか…慎重になってしまう。
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リサは、『こんないい出会いはなかなかないから、絶対に付き合ったほうがいい』って言うけれど。
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ヒナ
(…リサの言うことも分かるけど、)
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ヒナ
(いろいろと考えちゃうんだよな…)
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ルイ
…水、さすがにもったいないで。
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ヒナ
…っ、!?
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突然、ノックするように響いた声にビクリとなる。
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手にしたホースに反射的に視線を落とせば、指摘された通り、水がとめどなく流れ続けていた。
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ヒナ
えっ、あっ、ヤバッ…!
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車を洗い流している途中に、ホースを片手にぼんやりと立ち尽くしてしまっていた自分に呆れながら、
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すぐさま蛇口をひねって水流を止める。
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ヒナ
ったくもう…、
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ヒナ
何やってんだか、自分…。
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窘めるようにひとりごちて、溜め息を零した。
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